逃避行

結局跡部は六時間目になっても来なかった。五時間目の化学は、サボったらレポート提出って自分で言ってたくせに。ボーッと窓を眺めれば、テニスコートで誰かが打っているのが見えた。

「……あ、」

亮だ。でも、何で一人で打ってるんだろう。まだ授業中なのに。ずっと一人で打つ亮を見ていたら、無性に話し掛けたくなった。

「…先生!しんどいから保健室に行って来ます!」

咄嗟に嘘を付いてそのまま教室を出れば、後ろから先生が何か言っていたけれど、聞こえないフリをした。真っ直ぐテニスコートまで走れば、まだボールを打つ音が聞こえてきた。

「亮っ!」
「名前!?お前、まだ授業中…」
「亮もサボりじゃん!」
「…まぁ、な」

言葉を濁しながら答える亮に、少しだけ疑問を感じた。亮の近くまで行けば、打つのをやめてこっちに近付いて来た。

「昼休み、一緒に食べれなくてごめんね?」
「なぁ、昼休み…」
「ん?」
「日吉、といたか?」
「………え、」

何で、亮が、知ってるの…?

「…悪ぃ、その…屋上から、見えてた。」
「うん、日吉と、…ちょっと、相談…というか」
「俺には言えないのかよ!」

ムスッとした顔で、突然怒鳴る亮にビックリした。ラケットを地面に叩き付ければそのまま腕を引っ張られた。

「?!りょ、亮っ」
「いいから来いよ!」

グイグイと部室まで連れて来られれば、そのままフカフカのソファーに押し倒された。こんなに怖い亮、見たことがない。

「、亮!変だよ」
「名前は、俺が初めての彼氏なんだよな?」
「っ、そうだよ…?」
「じゃあ、…処女だよな?」

今にも泣きそうになりながら私に跨る亮は、いつもの優しい亮とはかけ離れていた。それでも、亮の射る様な視線から目が離せなかった。

「……ごめん、なさい」

それだけ言うので精一杯だった。胸がいっぱいいっぱいだった。

「何だよ、それ」
「………」
「俺が、今まで、お前を大事にしてきたのに…!」
「私、」
「お前は、テニス部なら誰でも良かったのか…?」
「!ちが…」

違わないだろ、吐き捨てる様に呟く亮は、もう私の知ってる亮じゃなかった。

「頼むから…俺だけを見てくれよ、」

そのまま制服を脱がせて、首筋から這わせる舌に驚いた。亮がこういう行為を外でするとは思わなかったからだ。

「…や、亮、ここ部室っ」
「授業中だろ、誰も来ねーよ」

そのままみるみるうちに脱がされ、下着だけになれば、戸惑う様子もなく胸元に優しく口付けられた。

「お前の彼氏は、俺だろ…?」
「……うん」

下の秘部に触れる亮に、不思議と嫌悪感はなかった。それでも、跡部や忍足、鳳くんとの行為がフラッシュバックして少しだけ怖かった。

「俺、初めてでよく分かんねーけど…優しくするから、」

亮は言葉通り本当に優しく抱いてくれた。途中何度も「痛かったら言え」「大丈夫か?」と気遣ってくれるのが何よりも嬉しかった。
行為後、二人でソファーに座っていれば突然「ゴメン」と謝られた。

「俺、最低だよな、カッとなってセックスするなんて」
「ううん、亮を不安にさせた私が悪いんだよ」
「…じゃあ、これで仲直りだな!」

二人で笑い合えば、もう放課後なのか部員達が数人やって来た。その中には日吉もいて、私と亮を見て「仲直り、したんですか」と聞いてきた。

「あ、うん!ありがとう日吉ー。じゃあ、私帰るね」
「あぁ、気を付けろよ」

亮と日吉に別れを告げ、教室までカバンを取りに戻ると、誰かが私の席に座っていた。



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