たまたま、だった。
名前から一緒にお昼を食べれない、という内容のメールを受け取った後、まるで計ったかのように長太郎に「一緒に屋上で食べませんか?」と誘われた。普段は食堂で食べるので珍しいと思った。断る理由も無かったので屋上に行けば、何故か跡部と睡眠中のジローもいた。
「お前らもかよ?…忍足、は」
「あーん?宍戸じゃねーか。忍足は向日と後から来る」
昨日の今日で忍足と会うのは気まずかったが、同じレギュラー同士、露骨に嫌な顔は出来ない。適当に長太郎の隣に座って食べ始めたら、ジローが目を覚ました。
「あれあれ、もしかしてもう昼休みだったりー?」
「ったく、今起きたのかよ」
「あっ宍戸に鳳だCー!」
「芥川さん今日は起きるの早いんですね」
「まだ昼休み始まって十分も経ってなE?うわ、俺早起き〜?……あっ、名前ちゃんだC〜!!」
何気なくジローが裏庭の方を見れば声を張り上げて名前の名前を呼んだ。名前が?なんでわざわざ裏庭なんかに。同じ様に裏庭の方を見れば名前がいた。……日吉と。
「…日吉?」
それといって仲良く食べている様子はない、が日吉の隣でご飯を食べる姿は間違いなく名前だった。普通、彼氏を断って他の男と食べるか??名前はマネージャーでも何でもねぇから、日吉と接点があるとすれば俺繋がりだ。そこで何となく嫌な予感がした。忍足に言われた言葉が段々もやもやしてきて、もしかしたら長太郎だけじゃなくて日吉とも繋がっているんじゃないか、と疑心暗鬼になった。
「宍戸さん、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ…何でもねえ」
箸が動かない俺を不思議に思ってか、心配してくれる長太郎がこの時だけは煩わしく感じた。その時忍足と向日が遅れてやって来たので、あまり食欲が無かったが動揺を見せたく無かったので無理にでも完食した。
「俺、先に教室に戻るわ」
一刻も早くこの場から立ち去りたかったのと、早く裏庭に行って何故日吉といるのかを名前本人に確かめたかった。急いで屋上から出ようとすれば誰かに手を握られドアノブに触れることは叶わなかった。
「!長太郎、」
「宍戸さん、行かないで下さい!日吉は、名前さんに話があるって!だから、今は日吉と二人にしてあげて下さい!」
「……何で長太郎が知ってんだよ」
「俺様が鳳に言ったんだ、」
は?
後ろを振り向けばアフターヌーンティー?を飲んでる跡部と目が合った。
「どういうつもりだよ、跡部」
「あーん?次期部長を可愛がってるだけだ」
「…は?」
「別に意味なんてねー。ただ日吉が名前に話があるって、言ってたのを聞いただけだ」
「!じゃあ、」
俺を止めんなよ。
言い掛けた言葉は惜しくもチャイムに遮られた。皆それぞれの移動教室に向かう為屋上を後にする中、跡部だけは微動だにしなかった。
「…授業遅れたら激ダサだぜ、跡部」
「俺様はいいんだよ、あーん?」
俺が屋上を後にする時も、跡部はずっと裏庭を見ていた。その横顔は何処か寂しげで、哀愁を漂わせていた。何だよ、名前は跡部の彼女じゃねーだろうが。
出る直前跡部に話掛けた時、何気なく裏庭に視線を向ければ、嫌な光景を見た気がした。日吉が名前を抱き締めているように見えたのは、俺の目の錯覚だろうか。