彼女は彼らに食された

名前さんの話を聞いて、跡部さんや忍足さん、鳳が許せなかった。
俺は名前さんが好きだ。でも名前さんが宍戸さんといて幸せなら、俺はその幸せを見届けるつもりだった。宍戸さんから奪うなんて、そんなことは下剋上じゃないと思った。好きな人の幸せが自分の幸せ、なんてただのエゴで綺麗事かもしれない。
それでも、名前さんには笑っていて欲しかった。泣き出す名前さんの手を握れば、「日吉は優しいんだね」なんて無理して笑うから、俺はどう反応していいか分からなかった。下心がないと言えば嘘になるかもしれない、それでも鳳みたいに無理矢理するつもりは微塵もない。

「俺が守ります、なんて言えませんが…話なら何時でも聞きます。」
「……うん、」
「宍戸さんに言えないなら、俺に言ってください」
「…ありがとう」

まだ少し腫れた目で無理に笑う名前さんを見るのは辛かった。五時間目が始まるベルが鳴れば名前さんは気まずそうに巻き込んじゃってごめんね、と呟いた。

「俺が勝手に問いただしただけです、だから気にしないで下さい。授業も、出席日数は足りてますから。」
「…日吉に迷惑かけちゃったなぁ」
「そんなこと、」

ないです。そこまで言おうとした時、誰かの視線を感じた。後ろを振り向けば今頃授業を受けているはずの跡部さんがいた。

「、跡部さん」
「何で日吉がいるんだよ、あーん?」
「…名前さんと一緒に、昼ご飯食べてただけです」

いけしゃあしゃあと話かけれる跡部さんの神経を疑った。そういえば、誰かが跡部さんは神経が図太いって言っていた気がする。
腫れた目を誤魔化して「何か用?」と聞く名前さんの声は無に近かった。感情が感じられない、機械的な声にゾッとした。

「五時間目、実験だろーが。化学はサボったらレポート五枚だぞ」
「あ…わす、れてた。」
「だろうな。ほら、行くぞ」
「……ごめん日吉、授業戻るね」

急いで立ち上がる名前さんの腕を掴みかけそうになって、慌てて引っ込めた。二人共急いでいるのか俺の方は振り返らなかったので、その事が二人にバレていないのが幸いだった。

名前さんの手を掴んでどうする、引き留めてどうする?引き留めたところで俺は無力だ。跡部さんに適うところなんて、ない。
きっと跡部さんも名前さんが好きだ、好きだからそういうことをしたんだ。跡部さんなりの愛情表現が名前さんを傷付けてしまった、ただそれだけなんだ。

「好きですよ、名前さん」

名前さんと跡部さんが去った後も、俺はただ、差し伸べ損ねた手をひたすら眺めていた。



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