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三つの目の続き
若が死んだあの日から半年が経った。あれから私は、まるで心にぽっかり穴が空いたかのように毎日を過ごしていた。
「いつまでそうする気だ」
「……」
「もう日吉はいない」
「……、知ってる」
毎日、若が引かれたあの場所で手を合わせた。そんな私を家まで送り届けるのは、決まって跡部だった。部活を引退した跡部だが、若が死んでしまったので若の代わりに、跡部がまたテニス部を見ている。
「…、今日は帰るぞ」
重い腰を上げて、跡部に引きずられるように私はその場を立ち去った。時々、跡部がよく分からない。何故こんなに私に優しくしてくれるのだろうか。一種の同情にも似たそれは、私を酷く苦しめた。
「俺が継ぎます」
その翌日の部活で、鳳くんが部長になると跡部に言った。たまたま部活に来ていた私と宍戸は、鳳くんが部長になってくれると喜んだ。しかし跡部は、頑なに首を縦には振らなかった。
「鳳は駄目だ、まだ早い」
彼は鳳くんにそう言った。早くはない、機は熟している。わたしと宍戸は必死に跡部に抗議した。しかしそれでも、鳳くんが部長になれることは無かった。
「何で鳳くんはダメなの?」
そっと献花を置きながら私は彼に聞いた。若の時は、すんなり部長に就任させたくせに。嫌味を籠めて呟けば彼は苦笑していた。
「あいつはまだなんだよ、日吉が早過ぎただけだ」
「……なにが、」
それは言えねえ。私から目を逸らして答える跡部を初めてズルいと思った。それでもしつこく尋ねれば、諦めたのかお前だけだぞ、と言って教えてくれた。
「He still aquire third eye.」
一瞬、彼の話す言葉が何か理解出来なかった。ようやくそれが英語だと気付いた頃、彼はその場に花を置いていた。跡部は誰よりも優しい男だ。毎日此処に、若の為に献花を置いてくれるのだから。
「悪かった、俺が日吉に全てを託しすぎた」
むしろ彼は優しすぎる、だから…私たちには何も言わない。若の言っていた三つの目の意味も、彼が死んだ原因も。黙って手を合わせる跡部の頬には、一筋の雫が伝っていた。