驟雨様に提出◎



明日、私たちは卒業式を迎える。

高校生活の思い出なんてない、たぶん。否、有りすぎて分からないとも言う。とにかく分からないまま、卒業式なんて迎えたくない。

「におー、卒業式どうする?」
「どうする、の意味が分からんのじゃけど」
「や、だからサボるか聞いてんの」

サボるって。意味分からんし。卒業式くらいちゃんと出んしゃい、と諭す仁王に「んー」と曖昧に返事をした。仁王は何も分かってない。このまま卒業しても、あやふやに彩られて私たちの青春は終わるだけなのに。薄っぺらい思い出の一ページに飾られるだけなのに。勿論彼らの偉業は伝説として語られて、立海大の歴史に載るだろう。けれどそれはテニス部の彼らだけで、マネージャーだった私なんかどうでもいい存在なのだ。時間が経てば、「マネージャー?いたっけ、そんなやつ」と言われても可笑しくない。時間と共に忘れられるのがオチだ。

「なんかね、寂しいの。私たちの三年間が、それだけで終わっちゃうのが」
「…意味分からんし」

うん、そうだね。私も分かんないや。別に名前を残して欲しいわけじゃない、他の人が忘れたって構わない。でも、皆には忘れられたくないの。私がいたって、ちゃんと覚えてて欲しいの。

「お前さんのこと、忘れるわけなか。みんなちゃんと覚えてるぜよ」

やさしく笑い掛ける仁王に無言で抱き締めた。この温かい彼とも、もうすぐお別れなのだ。

「イヤだなぁ、やっぱり」

卒業したくない、皆と離れたくない。そんなの私のワガママなのに。彼はそれでも何も言わずにそっと手を握ってくれた。寂しそうに私を見つめるその瞳は、まるで映し鏡のように反射していた。

「みんな一緒じゃ、離れたくなか。あいつらは…言わないだけぜよ」

口に出してしまえば、寂しいからの。と呟き彼はそっと目を伏せた。私だって子供じゃない、と言おうと思ったけどやめた。卒業式をサボろうとするなんて、それこそ幼稚な行為ではないか。「そうだね」と返事をすれば、不意に仁王が私の手を離した。

「明日の朝八時、教室で待ってるぜよ」

そのまま仁王は、振り向くことなく私から離れて行った。昨日までの私なら、間違いなく彼を走って追い掛けていた。けれど今は違う。「うん、」とその場で呟いただけで追い掛けることはしなかった。少しだけ切ない気持ちにもなったが、私たちは何も変わらない、そう信じてみようと思った。

明日、私たちはそれぞれの道を歩んで行くのだ。彼は、その一歩を踏み出す勇気を、私にくれたのだと思う。



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