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私の王子様様に提出用
※みんな高校生くらい
もうすぐお前の誕生日だろ?何が欲しいんだよ、と跡部に言われたので、冗談半分で「彼氏」と言えば「誕生日までに用意しといてやる」なんて答えが返って来たのがつい三日前。
そしてついに、今日は私の誕生日だ。
十二時になった途端テニス部の面々からメールが届いた。長太郎からは「おめでとうございます」っていう丁寧なメールに対し、ペアの宍戸からは「どおらぁ!」の一文だけだった。…って意味分からないし。あと忍足からは「おめでとう。また一段と大人になったな。あ、生足見せてな」…とりあえずメールを見なかったことにした。あと「先輩の年齢に下剋上」っていうのもあったけど日吉、年齢は流石に無理だと思うよ。他にも滝くんやら向日やら、意外にも寝てそうなジローちゃんからもメールが来た。
十分経過しても跡部からはメールが来なくて、ちょっとだけ寂しいなと思いつつベッドに入れば、けたたましい着信音で目が覚めた。
「……もしもし?」
「俺様だ、」
どこの俺様詐欺だよ、と内心突っ込みつつ適当にあしらえば今すぐ外に出ろ、と跡部に言われた。
「はぁ?無理、寝る」
「俺様の布団で寝ればいいだろ、あーん?」
「…………は?」
跡部の布団?あのフカフカで有名な跡部の??跡部の家にあるあの布団で?
「…朝帰り?」
「な訳ねーだろ。泊まりだ、泊まり」
いや、余計重いよ!大体、明日普通に学校あるのに親が許すわけ…
「お前の両親から許可はもう貰ってある」
跡部の仕事の早さには毎回驚かされるけれど、ここで渋ったら強行手段として部屋に不法侵入されそうなので、渋々学校の用意と着替えを持って外に出た。
「俺様を五分も待たせるなんて、良い度胸してんじゃねーか」
「急に来られてすぐ用意した私を褒めてほしいくらいなんだけど」
「あーん?迎えに来ることくらい想定しやがれ」
跡部の車に乗り込めば早速文句を言われた。むしろこんな時間に迎えに来る方が、非常識だと思わないのだろうか。それに何より、運転手さんにも悪いし。
「もう皆揃ってんぞ」
「へ、皆?」
皆って誰?と聞いても誤魔化された。そのまま跡部の家に着けば、夜中だというのにまだ明かりが付いていた。跡部に着いて行くがまま、ある部屋まで入った瞬間、盛大なクラッカーの音で思わず心臓が止まりそうになった。
「誕生日、おめでとさん」
優しそうに私の頭を撫でる忍足に、仏頂面ながらもちゃっかりクラッカーを持ってる日吉、人の家だというのに飛び跳ねる向日を見て、ようやく私が祝われているのだと確信した。
「え、なにこれ、」
「お前の誕生日パーティに決まってんだろーが」
「……こういうのってさ、普通学校から帰ってからするもんなんじゃない?」
お前のこと一番に祝いたかったんだよ、と言う跡部は何故か少しだけ顔が赤かった。…いやいや、こっちの方が赤面しそうなんですけど。
「今日はオールやでー」
「えー、俺寝そうだC〜」
じゃあジローは寝とき、と言いながらちゃっかりタオルケットを渡すあたり、忍足は意外と優しい。変態だけど。その後ジローちゃんが寝落ちしてから、朝まで私たちは騒ぎまくった。お陰で全員起きたら十二時、という完璧に寝坊コースである。
「おい、学校はどうするんだよ」
「今から行っても五時間目ですよ」
「もうサボろうぜ」
向日の提案で私たちはサボることにした。テニス部レギュラーがサボるなんて、絶対学校はパニック状態だろう。少しだけその様子を見たい気もしたが、ジローちゃんがカラオケに行きたいと言い出したので、私たちは近所のカラオケ屋に行くことになった。
「カラオケなんて、久しぶりやなあ…」
「跡部はカラオケ、知ってるの?」
「当たり前だ、」
庶民の遊びを勉強するのも大事なんだよ、と訳の分からない定義を持ち出され、よく分からなかったが適当に頷いておいた。それにしても、カラオケなんていつぶりだろうか。宍戸と長太郎の三人で行ったのが最後かもしれない。
カラオケに着けば、大人数だったからか、誰かが事前に予約していたからかは分からないが、かなり広い大部屋に案内された。大部屋って歌うとき変に緊張するんだよね、妙な距離感というか何というか。部屋に入るなりジローちゃんは熟睡していたが、跡部は何を思ったのか、持って来たクラッカーを鳴らし始めた。
「わ、ビビった。つか何でクラッカー持ってるわけ?」
記念だ、と訳の分からないことを言いだす跡部を置いて、向日と忍足は競うように曲を入れまくっていた。あー、私も久しぶりに歌いたいな。
「ったく、お前らばっか入れてんじゃねーよ」
「宍戸さん!二人でデュエットしましょう!」
私の隣に座っている跡部はと言えば、優雅にアイスティーを飲むだけで曲を入れる気配が全く無かった。
「ねえ、跡部は歌わないの?」
聞いても「ああ、」と上の空だったので、宍戸に頼んで曲を入れてもらおうとすれば、不意に手を掴まれ「おい、今から抜けるぞ」と私にだけ聞こえる声で言った。
「っ、え」
彼はテーブルに万札を置いて、「俺様の奢りだ」とだけ言えば一度も振り向かずに部屋を飛び出した。何処に行くの、と跡部に聞いても「いいから着いて来い」と言うだけだったので黙って追い掛けた。学校近くの公園まで来た時、不意に跡部は立ち止まった。公園に来たかったのだろうか、誰もいない公園に入る彼の後を追えば「久しぶりだな」と笑って跡部は呟いた。のろのろとブランコを漕ぎ始める跡部につられ、私も隣のブランコに座った時「お前にまだ誕生日プレゼントを渡してなかっただろ?」と彼は漕ぎながら言った。
「プレゼントなら貰ったよ。みんなから祝って貰ったじゃん」
「バーカ、俺様からのプレゼントだよ」
急に漕ぐのを辞めた跡部は、ブランコから降り私の目の前に立ち止まった。
「なっ、なに?」
まじまじと私を見つめる跡部に、思わずたじろいで立ち上がろうとした時、彼はそのままでいいから聞け、と耳元で囁いて来た。
「俺様の女にならねぇか?…いや、なれ。俺様がお前の誕生日プレゼントだ。」
思ってもみなかった最高の誕生日プレゼントに、私は思わず抱き締めた。私でいいの、と彼に顔を埋めたまま尋ねれば「お前がいいんだよ」とありきたりな言葉だったが、凄く嬉しかった。最高の誕生日プレゼントだ、と思い何気なく後ろを振り返った瞬間、あまりの光景に絶句した。
「「跡部様!おめでとうございます!!」」
「なっ、」
何だこれは、一体何が起こったのだろうか。後ろを見れば氷帝の制服を着た生徒が公園を取り囲むように立っていた、私の記憶が正しければ今は授業中のはずなのに。それよりも、だ。
「えっと、見られてた…わけ…?」
「あーん?学校公認になっただけだろーが」
平然と答える跡部の鳩尾に、思わず頭突きするところだったが何とか堪え、盛大なため息で我慢してあげた。この派手好きな性格は、何とかならないものだろうか。これから跡部と付き合うのかと思えば嬉しい反面、彼の行動で苦労するのが目に見えていた。
「跡部らしいっちゃ、跡部らしいんだけどね」
「あ、何か言ったか?」
何でもない、とまた彼のお腹に顔を埋めれば、少しだけ火薬の匂いがした気がした。