これの続き



「__って、処女なんだってね」

幸村と成り行きで付き合い始めて約一ヶ月、初めてのデートで、むしろこのタイミングで言う幸村に絶句した。…は?今こいつ、何て言った??

「ちょっと、場所考えてよ」

折角スタバで、優雅にココアを飲んでいたのに幸村のせいで台無しではないか。私の咎めも「てへぺろ」の一言で誤魔化された。可愛かったのがまた悔しい。同じように、てへぺろを私がしても、きっと幸村は鼻で笑うに違いないだろう。素直に「処女ですけど」と答えれば、やっぱり、と彼は嬉しそうだった。

「今日俺の家、来るだろ?」
「っは!?」

いやいやいや、私たちまだ中学生だし、やっぱりそういう行為は付き合って一年とか、せめて高校生になってからするべきなんじゃ……。其処まで言った時、幸村は堪えきれないように吹き出した。

「へぇ、__って意外とむっつりなんだね。」
「なっ、幸村が紛らわしいこと言うから!」

俺のせいにするんだ、と私に笑いかけるが、逆にそれが「頭が高いんじゃない?」という無言の圧力だった。幸村様半端なく怖い。

「……えっと、幸村の家で何するの?」
「望み通り犯そうか?」
「冗談だよね?」

さあ、といたずらっ子のように笑う幸村に苦笑いしか出来なかった。っていうか幸村様怖い。本当に怖い。

「お前に見せたいものがあるんだ」

行くよ、と私の意見はいつも通り無視され、引っ張られるがまま幸村の家まで来てしまった。しかし家の中は静けさに包まれていて、人がいる気配が全く無い。「誰もいないの?」と聞いても「みたいだね」と幸村は全く動揺していない。か、彼氏の家で二人きりってヤバくない?いろいヤバくない?幸村だよ?幸村様だよ?

「煩いな、本気で犯そうか」
「ちょっと、顔がマジなんだけど、」

ぐいぐいと近付いて来る幸村に、思わず目をつぶれば、額に思いっきりデコピンされた。

「っいた!」
「大袈裟だな、軽く当てただけじゃん」

大袈裟だと彼は言うが私の額は赤くなっている。これは全然、軽く当てた程度ではない。恐るべし幸村様。デコピンでこれなら、幸村につねられたら一体どうなるのだろうか。皮膚が千切れてしまう気しかしない。

「ふふ、何なら千切ってあげようか?」

幸村の顔がマジだったので取り敢えず謝っておいた。彼は気にしていない様子で「こっちにおいでよ」と庭の方まで私を手招いた。

「わあ…」

幸村邸の庭は色とりどりの花が植えられ、それはまるで小さな植物園だった。綺麗だろ、と微笑む幸村の笑みの方が、私にとって綺麗だと思った。

「__、おいで」

おそるおそる隣に行けば、突然手を引かれ見事に幸村に向かって飛び込んでしまった。彼は黙って私を受け止めたまま、離そうとしなかったので、必然的に抱き締められている格好になった。

「ゆ、幸村!」
「ねぇ、いい加減精市って呼んでよ」

見上げれば幸村とバチリ、と目が合ってしまい、途端に恥ずかしくなった。思えば、幸村とこんなに至近距離で話すのは初めてかもしれない。真田がいれば破廉恥とかたるんどる、とか言われそうだけど。

「ゆ、幸村の方が言いやすいし」
「ダメ、俺は__なのに。不公平だよ」

言わないならキスするよ、と幸村があまりにも真顔で言うので「せ、精市…様」と、自分で恥ずかしくなる位しどろもどろになってしまった。

「様いらない」
「せ、精市さん」
「…ねえ、ふざけてるの?」

ギュッと私の頬を摘む彼に「痛い痛い、痛いです!…精市っ!」と訴えた時、ようやく手を離してくれた。

「あ、頬っぺた真っ赤だ」
「ちょっと、幸…精市本気だったでしょ」

まさか、と笑うが絶対わざとだ。あれは人を虐めて楽しんでる顔だ。

「あ。__のせいで忘れるところだったよ」
「え、私のせい?」
「はいこれ、プレゼント」

精市から渡されたのは花束だった。私は花に詳しくないから、何の花かは分からない。でも向日葵やパンジーではないのは分かる。

「ダリヤも知らないとか馬鹿なの?」
「ダリヤ?」

俺の好きな花、と言う精市の顔は少しだけ赤かった。えー、私コスモスの方が好きなのに。

「__には似合わない花だね」
「何で?」
「コスモスの花言葉は乙女の純潔、真心。」

__とは正反対だ、と付け加える精市だが、普通彼女に言う?誉められたいわけじゃないけど、酷くない?

「じゃあダリヤの花言葉は?」

真っ直ぐ精市を見て聞いた時、彼は直ぐに顔を背けてしまった。

「自分で調べなよ」
「知ってるなら教えてよ」
「…言いたくない」

精市は何度聞いても、頑なに言ってくれないので仕方なく携帯で調べることにした。

「……一目惚れ?」

彼に確認するように尋ねた時、返事の変わりに唇を指で摘まれた。

「ふふっ、不細工な顔。」
「ひほっ(ひどっ)!」
「でも、スゴく可愛いよ。」

いきなり指を離されたと思えば、彼は何を思ったのか、躊躇なく私の口に指を突っ込んできた。バイオレンス精市だ、ヤバイ。これは冗談抜きでヤバイ。身の危険を感じて精市の指を噛んでやろうとした瞬間、指を引き抜かれたので私は思いっきり自分の舌を噛んだ。痛い。

「そういう馬鹿なとこが、好きだよ」

精市の考えることはたまに分からないけど、愛されているのは何となく分かった。結局私も、彼のことが嫌いではないのだ。






▽秋の魔王祭り終了



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