これの続きっぽい(丸井が最低)





付き合って三年の彼氏に振られた。中三の夏から付き合い始めて、全部初めてをあげた人だった。でも本当は気付いていた、彼が半年前から浮気していたことくらい。たまに彼から香る女物の香水に、彼の部屋に見たこともないピアスが落ちていたり、挙げ句の果てには知らない女と抱き合っているプリクラまで見付けた。それでも私は彼に問い詰めなかった。どうせ聞いても「ただの友達」で誤魔化されると分かっていたからだ。それに、彼とは長い付き合いだ。だからまたいつか、私の元に戻って来てくれると思っていた。

「悪ぃ、別れてほしーんだけど」

悪怯れる様子もなく、いけしゃあしゃあと新しい女を連れて別れを告げられた。私の気持ちなんて、彼には全く伝わらなかったのだ。

「、待って」
必死に呼び止めても、もう彼との関係は終わってしまっていた。家に帰ってから彼との写真は全て破り、彼から貰ったプレゼントは全部捨てた。それでも、一年記念の時に貰ったペアリングだけは捨てられなかった。

「…どうしよう、これ」

屋上のフェンスに寄りかかりながら、捨てられなかったペアリングを眺めていた時、誰かが近付いて来る足音が聞こえた。

「あいつと別れたんか?」
「……、仁王」

振り向けば同じクラスの仁王だった。何かの因縁なのか、仁王とは中三からずっとクラスが一緒だ。しかし彼と付き合い始めたのがバレたあの日以来、仁王とはクラスメイトから赤の他人になった。まともに顔を見るのも、三年ぶりかもしれない。三年前よりも大人っぽく、男らしくなった仁王は黙って私の隣に座った。未だに握り締めたままのペアリングを見て、「まだ好きなんか?」と此方を見ずに尋ねて来た。

「どうだろう。元々、ずっと一緒にいたから。」

ほら、幼なじみだからさ。と付け加えれば彼は何も言わなかった。お互い何も話さないまま、しばらく一緒にいたが、妙に居心地が良かった。三人で馬鹿みたいに騒いでいた時とは違う、安心感がそこにはあった。何分経ったかは分からない、気付いたら仁王は立ち上がって私をジッと見つめていた。

「のぉ、そのペアリング俺にくれん?」

あの日と同じ、真っ直ぐな視線が私を捕えたまま離さなかった。こんなもの、仁王にとって何の価値も無いはずなのに。それでも、彼はそれを欲した。気が付けば私は彼の手に指輪を渡していた。仁王が何をしようとしているのか、何を思っているのか、薄々予想は付いていた。

「ブン太には、内緒にしといてね」
「…知っとうよ、ちゃんと黙っとくぜよ」

私から指輪を受け取る仁王は少しだけ嬉しそうだった。彼はそれを手のひらに置いたまま握り締めた。

「この指輪、消えるよ」

私には誰の真似かは分からなかったが、彼が台詞と共にゆっくりと手を開いた時、もう指輪は跡形もなく消えていた。

「仁王って、マジシャンなの?」

イリュージョンぜよ、と微笑んでから仁王は私の手をギュッと掴んだ。

「三年前、お前さんに言った言葉を覚えちょるか?」
「さよならは、永遠の別れくらい深刻なんでしょ?」

私の答えを聞いて、彼は「三年前に言ったのは、訂正するぜよ」とはにかんだ。

「さよならにはの、自分の運命を受け入れる、という意味もあるんじゃよ。」

ある本に書いてあったナリ、と照れ臭そうに話す仁王から目が離せなかった。もしかしたら、彼は「さよなら」の本当の意味を、自分なりに必死に探していたかもしれない。

「だからの、あの日のさよならは取り消しじゃ」

清々しいほど晴れ渡った空の下、私と仁王の関係は三年経って、ようやく修復出来たのだ。



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