あるところに、ずる賢い少年がいました。彼はみんなから詐欺師と言われていましたが、天才とも言われていました。でも私だけは騙されません。彼の才能は全てフェイクです、偽物なんです。噂通りの詐欺師なんです。偽りで出来た彼の中身は、本当は空っぽなんです。

「は?なに言っとるんじゃ」
「マサシの説明」
「…雅治なんじゃけど」

いい加減俺の名前覚えんしゃい、と彼は言うが私にとってそれは、物凄くどうでもいいことだった。今まで仁王くん、と呼んでいた彼を雅治なんて急に呼び捨てに出来る訳が無い。何より、雅治だろうがマサシだろうがムサシだろうが、彼は変わらない。そう、彼は彼なのだから。

「良いこと言った、みたいな顔やめんしゃい。つかムサシとか、最早擦りもしてないんじゃけど」

ため息混じりに呟く彼の頭を撫でようと右手を挙げれば、ジャラリと鎖の音が狭い空間に響いた。無音だった室内は、その一瞬で空気が変わった。

「何時になったら、この鎖が解けるわけ?」

私の右手には、趣味の悪い鎖のブレスレットが付いている。私が付けたくて付けた訳ではない、寝ている間に彼によって付けられたのだ。外したいのは山々だが、鍵が無いと外せない仕組みだ。そしてその鍵は、彼が持っている。「__が俺のモノになったらのぉ」と目を細めて笑う彼の表情は、作られた笑みだった。

「その笑い方、柳生みたい。」

いい人を演じて、綺麗な笑顔を作って、そのくせえげつない柳生が、私は嫌いだ。それを彼は知っている。知っててやっているからこそ、質が悪い。

「柳生が嫌いなんか?」

別に、と曖昧に濁せば「ちゃんと答えんしゃい」と彼は私の髪を思いっきり掴んだ。「嫌いじゃない」と告げた瞬間、引っ張られた髪が抜けるのも気にせず、勢いよく振り払われた。彼は手に付いた私の髪をハラハラと床に落としながら、「__に裏切られた気分じゃ」と吐き捨てるように呟いた。

「一年の時から最近まで付き合ってたんじゃろ、柳生と。」
「!何で、」
「はっ、俺が知らんとか思ってたんか?」

私を見つめる彼の顔は、無表情だった。その顔が、一瞬だけ柳生と被った。彼はそのまま私を押し倒し、全体重を掛けるよう馬乗りのまま、ゆっくりと私の首元に手を添えた。

「__と柳生は、不釣り合いぜよ。」

少しずつ手に力を加える彼は、笑っていた。いつもの勝ち誇った笑みではなく、さっきみたいな作った笑みでもない。まるで幼児が新しい玩具を見付けた様な、あどけない笑みだった。その時玄関が開く音がした。そっと「雅治、」と呼び掛けた瞬間、彼の手に籠められていた力が緩んだ。

「…お母さんが、帰って来たよ」
「……」
「まさ、」
「なんで、なんで__が俺の兄妹になるんじゃ!この前まで、ただのクラスメイトじゃったのに…俺…」

一瞬取り乱した雅治だったが、直ぐにいつものように私の髪を撫でながら「__、」と私を呼んだ。彼は哀しそうに微笑んだ後、恐る恐る私に口付けた。ずる賢い彼のことだ、とっくに気付いているはずなのに。そうやって知らないフリをする姿は、余りにも滑稽だった。

「ずっと前から、好いとうよ」

そして何より、雅治を拒まなかった私が一番愚かだ。そっと唇を拭えば、ジャラリと鎖のブレスレットが鳴り響いた。




両親再婚→仁王と兄妹



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