僕の知らない世界で様に提出


最初は、彼が本気で好きなのでは無かった。

好きか嫌いか、で言えば勿論好きだ。ただ私は、「レギュラーの彼女」という肩書きが欲しかっただけで、玉砕覚悟で彼に告白した。しかし予想とは異なり、あっさりと「いいですよ」と彼は言った。不思議で堪らなかったが、これで晴れて「レギュラーの彼女」という肩書きを、私は手に入れた。彼と付き合い出してから「次期部長候補」という噂が出回り、私の格も一段上がった。しかし、やはり彼のことは本当の意味で好きにはなれなかった。

「いいなぁ、彼氏が日吉くんなんてレアだよ、レア」
「レアって、」
「何言ってんの!宝くじ当てるくらい、レギュラーと付き合うのは難しいんだからね!」

そんなことないよ、と言いつつも本当は嬉しかった。若と付き合えた私は、一生分の運を使い果たしたかもしれない。そのくらい、「レギュラーの彼女」ましてや次期部長候補の彼女、は価値があるものだった。

「先輩も、案外くだらないことを気にして生きているんですね」

そんな私の思惑を、彼はくだらないの一言で片付けた。しかし私の本音を知ったのにも関わらず、彼は別れるとは絶対言わなかった。仮面カップル、私と若にはそんな言葉がピッタリだった。

「俺は先輩のこと、結構好きですよ」

そういう図太い神経してるところが、ですけど。と嫌味たらしく彼は付け加えたが、私も若は嫌いではない。

「何考えてるかよく分からないとことか、ね」
「似た者同士ですね、」

フッと笑ってから若は先に教室を出た。ボーッと窓の外を見ている時、何処からか名前を呼ばれた気がした。振り返れば、クラスメイトであり、テニス部部長の跡部がいた。跡部は高嶺の花のような存在だ、みんなからも一目置かれている。そんな彼が、一クラスメイトにすぎない私に何か用だろうか。不思議に思いつつ、呼ばれるがまま彼に着いて行った先は、氷帝のテニスコートだった。

「お前は、日吉が好きか?」

いきなりの彼の質問に私は戸惑った。好きだよ、と下を向きながら言えば跡部は笑って「案外鈍いんだな、お前」と言った。なにが鈍いのか分からなかったが、それだけ言えば彼は練習に戻ってしまった。折角テニスコートまで来たのだ、練習を見てから帰ろうと視線をずらせば、少し離れた所に若が立っていた。

「俺は、先輩よりも最低な人間です」
「なに、が」
「結局、…跡部さんには適いませんね」

別れましょう、にっこりと微笑んだ彼の目は、少しだけ潤んでいた。翌日から、私の誇っていた肩書きは消えてしまった。しかし煩わしく感じていた重荷が無くなったように感じたのも、また事実であった。別れてから、不思議と若に対する好き、は前よりも確実に愛情の意味に変わっていった。

「知ってる?あの子が跡部様の好きな人って、知ってて日吉くんは付き合ったらしいよ」
「えー、じゃあ横取りしたわけ?」
「そうなんじゃない?だってさあ………」

私と彼が別れた一週間後、学校中はその噂で溢れていた。本人が否定しないから、余計好き勝手言われていた。誰が広めたかは分からない。もしかしたら若かもしれないし、跡部かもしれない。私にとって、そんなことはどうでも良かった。

「先輩も物好きですね、…俺と寄りを戻したいなんて」
「お互い様でしょ、」
「仕方ないじゃないですか、似た者同士なんですから。」

そう言いながらも、彼の顔はどこか嬉しそうだった。これを愛と呼ぶのなら、

「どこまでも、愚かで美しいものですね。」

にっこりと、私の手を掴みながら彼は微笑んだ。



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