「お兄ちゃん、私彼氏出来た」

カタンと、持っていた食器を机に置いて思わず頭を抱えた。え?ちょ、ちょっと待って?今__は、何て言うた??彼氏?何それ?彼氏が出来た?__に?は?何て何て何て??What?What did you say?

「だから、彼氏が出来たんやって」
「あかん!それだけはあかん!!まだお前中二やぞ!!?早い、早いわ!!アホ!」

箸を突き付けて力説しても__は聞く耳を持たず、ただ「はいはい、あっ明日デートやし。邪魔せんといてな」と言うだけやった。…は?デート??デートって、あのデートかいな?男と女が手繋いで帰り際に…ちゅ、ちゅーするあれか??こうなったらデートとやらを阻止して意地でも別れさしたる。どんな奴やねん、って聞いても「お兄ちゃんの知ってる人」としか教えてくれへんかった。…は?知ってる人?そう言えば好きなタイプは年上って、…まさか、謙也とかちゃうよな?ハハ、まさか、なあ…?


「……部長、なにやってんスか」

翌日、いつもの倍お洒落してめっちゃ可愛い(あっこれ妹贔屓ちゃうで!)__の十メートル後ろを電柱に張り付きながら追跡してるところを、後輩の財前に見られた。つーかなんで財前がここにおんねん。…まあええわ。あくまで__の見張りや、見張り。俺の可愛い妹の__を誘惑した相手をボッコボコにしたいとか、そんなんちゃうで?あくまで見守るって意味での見張りやで?

「余計__に嫌われますよ」
「心配すんな、財前。可愛い妹に近付く害虫駆除しようとか、俺が思ってるわけないやろ」
「…、そうっスか」

何故か財前も俺に着いてきて、二人で__を見張ることにした。財前と__を追跡し始めて数分後、一番怪しい謙也が走って来るんが見えた。おいおい、当たってしもたんちゃうんかこれ!__の彼氏って、やっぱ謙也やったんか?!

「あっ謙也くん、相変わらず忙しそうやなあ」
「__ちゃんはデート?」
「うん、せやねん初デート。」
「頑張ってな!あと、そ…その、今日の__ちゃんめっちゃ可愛いで!あいつもイチコロやな!ほな!」

言いたいことだけ行って謙也は立ち去っていった。つーかあいつ、なにサラッと可愛いとか口説いてんねん。可愛いって言うていいのは兄である俺だけやねん。よっしゃ、週明けの練習謙也だけ二倍にしたろ。それにしてもあの雰囲気やと彼氏は謙也ちゃうみたいや…。ほんま誰やねん、俺の可愛い__をたぶらかした奴。内心千歳ちゃうか、とか思ってるんやけど、もし千歳が__の彼氏なら俺はどうしたらええんや…

「あ、千歳先輩」
「はあっ!?」

電柱に張り付くように凝視すれば、__と談笑しながら歩いてる千歳が見えた。真犯人はやっぱ千歳か…!ちゃらんぽらんに見えてちゃっかり__を口説いてたんか…!?

「今日の__はむぞらしかー」
「そんなことないよ?」
「いやトトロくらいむぞらしかー」
「千里くんの基準よう分からんわー」
「今度DVD一緒に見んと?」
「いいよー」

曲がり角を曲がったところで、千歳と__は「バイバーイ」と別々の方向に歩いていった。千歳でもない、やと…?じゃあ一体誰なんや…!?誰が__の彼氏なんや!!?
色々と複雑な思考を張り巡らせながら駅前まで行った時、__は周囲を見渡していた。おいおい、女の子待たすとか無いわ。この時点で、半殺し確定やな。普通男が先に着いてて、

「あ、待った?」
「ううん、今来たとこやし大丈夫」

そうそう、こういうカップルみたいなやり取り…やり取りが…?目の前で繰り広げられ…え…?財前……?

「ってか何でお兄ちゃんと一緒に来てんの?」
「財前、お前まさか…?」
「あー、なんか言いにくかったんっスわ」

ははっ、お前、そんなん、冗談きっついで?っていうか、え?よく見たら財前今日めっちゃお洒落やん……。なんか無駄にイケメンやん…ハハッ、嘘やろ?

「で、でも__の好きなタイプ年上って言うてたよな…!?」
「光くん大人っぽいやん」

あかん、待って、え?気持ちが付いて行かへんねんけど。だって、ちょっと前まで財前のこと「光くん生意気やし苦手」って言うてたやん?財前も__のこと「部長の妹とクラス一緒なったとか最悪っスわ」って言うてたやん?

「光くん実は良い人やねん」
「最悪とは言ったけど、嫌いとは言うてないっスわ」

俺を置いたまま__と財前は仲良さ気に手を繋いで歩いていった。思わず__の手を掴んだら、絶対零度の様なオーラを纏って「これ以上邪魔したら、カブリエルの命はないと思ってや」と満面の笑みで告げられた。あかん、俺の完敗や。

帰って来た__は、嬉しそうに「光くんとチューしちゃった!」と語尾に てへぺろ が付きそうなテンションで俺に報告してきた。「へえ、」と答えたけど俺はもうあかん、立ち直れへん。可愛い妹を後輩に横取りされた、このズタズタな気持ちをカブリエルに癒してもらおうと思った。カブリエルなら無言で受け止めてくれるはずや。
…せやなあ、財前の明日の練習メニュー、謙也の五倍で許してやろかな。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -