▽魔王祭り第四段
突然ですが、私は魔法使いです。
今まで私が望めば、大抵それは叶った。しかしこの魔法にも限りがあった、あと一回。次の魔法を使えば私は魔法使いではなく、ただの一般人になるのだ。
今までつまらないことにでも魔法を使ったが、最後は何か大切なことに使いたい、そう思ってずっと残しておいた。
私はクラスの幸村くんにずっと片思いをしてる。たまに見せる、あのあどけない笑みに惚れたのだ。
「俺さ、__さんのことが好きなんだけど」
だから、幸村くんに告白された時は驚いた。勿論私が断るわけもなく、その日から晴れて付き合い始めた。
付き合って一年、初めて喧嘩をした、丁度全国大会の日だった。喧嘩した理由は、あまり記憶にないくらい、くだらないことだった。それでも、精市が悪くなかったことだけは覚えている。
「負けちゃえばいいのに!」
ヒートアップした私は、咄嗟にそんなことを呟いた。彼は笑って私に「ごめん」と言った。酷いことを言ってしまった、謝らなければいけない。分かっているのに、質の悪い意地がそれを許してくれなかった。
それでも彼は、「試合が終わったら、仲直りだね」と私に優しく笑い掛けるのだ。見に行かないから、と言っていたが精市が三連覇を遂げるところを、私もこの目で見たかった。彼には内緒で、こっそり試合を見に行った。
「…嘘だ、」
目に入った光景は、予想とは違うものだった。青学の彼らが喜ぶ傍ら、悔しそうにラケットを握り締める精市の姿が見えた。
負けちゃえばいいのに、あの時何気なく呟いた言葉を思い出してゾッとした。待って、嘘、そんな、まさか。
立海が、…精市が三連覇する夢は、叶わないまま夏が終わった。これが私の、最後に使った魔法です。