「失恋しました」

まるで機械のような、感情の無い声で彼は言った。何で一々私に報告するの、と言えば「ほうれんそう、知らないんですか?」と少し小馬鹿にした言い方だった。

「知ってるから。報告連絡相談、略してほうれんそう。」

先輩は物知りですね、私を見つめるその瞳は、少しも敬意が感じられなかった。「馬鹿にしている訳じゃありません」と継ぎ足す様に彼は言ったが、私には馬鹿にされているようにしか感じられなかった。

「先輩に言えば、すっきりすると思ったんですけど。…俺の誤算でした。」

いつもと同じ口調の彼は、ちっとも変わらないようにも見えたが、何処か悲しんでいるようにも見えた。顔色を伺おうとすれば、咄嗟に顔を背蹴られたので、諦めて窓の外に視線を移す事にした。

「降りそうだね、雨」

そうですね、と答える彼の顔付きは、大人びていたがやはりあどけない少年のままだった。そのまま、空色と同じくらい重い空気の中、お互い一言も話さないまま窓の外を見つめた。気付けば、外の雨は本格的に降り出していた。「止みそうにないや、」小さく呟いてから彼を見れば、彼の頬には雫が伝っていた。

「先輩、好きです」

嗚咽を堪えながら告白する彼に、驚いた。さっき失恋した、と言ったのは私のことだったのだろか。黙って彼を見つめれば「すみません」と直ぐに袖で目を擦っていた。

「失恋、したんじゃなかったの」
「でも、もういいんです。俺の気持ちは、晴れました」

さっきとは違う、精々した顔付きは外の天気とは似合わなかった。帰りましょう、と何事も無かったかのように告げる彼に「傘、忘れたみたい」と言えば彼は困ったように微笑んだ。

「俺の傘、使いますか?」
「日吉が濡れるじゃん。」
「いいんです、濡れたい気分なんで」

それは、泣いた跡を隠すためだろうか。それ以上何も言わない彼は、黙って私に自分の傘を差し出した。傘を見つめたまま一向に受け取らない私に、彼は首をかしげて「いらないんですか」と問い掛けた。

「日吉が濡れちゃうじゃない」
「だから、濡れたい気分なんです」

ザーザーと降り続く雨は、彼の言葉を殆ど掻き消した。「じゃあ、相合傘しよっか。」何気なく言った一言に、彼だけでなく私も驚いた。
「跡部さんに、怒られますよ」諭すような彼の口振りから、失恋の意味が安易に想像できた。それに対して、振ったよ、と一言告げれば彼の手からゆっくりと傘が落ちていった。

「、振ったんですか?」
「うん、振った。」

ゆっくりと傘を拾い上げる彼の手にそっと触れれば、日吉は笑ってこう言うのだ。

「濡れたくない気分なので、一緒に帰りませんか?」



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -