四畳半様に提出。



テニス部に入った時から、先輩のことをずっと見ていた。だからこそ、先輩が跡部さんを好きなことくらい最初から知っていた。

「日吉くん、私…跡部先輩が好きなの」

たまたま隣の席になった、名前も知らない女子が、俺に跡部さんが好きだと打ち明けた時「協力してくれない?」と頼まれた。どうせダメ元に決まってる、そんな軽い気持ちで跡部さんにその女子を紹介すれば、意気投合したのかすぐにいい雰囲気になった。
それから少し後、跡部さんが「告白されたんだが、どうすればいいと思う?」といった内容の相談を宍戸さんにしていたのを俺は偶々聞いてしまった。

「悩むくらいならさ、付き合えばいーんじゃねーの?」
「……」
「なんだよ、俺に相談しておいて…」
「好きなんだ、あいつが」

はっきりとした口調で、跡部さんは言っていた。今まで、跡部さんが先輩を好きだなんて、全く知らなかった。何故なら跡部さんは、そんな素振りを一切見せなかったからだ。呆然と立ちすくす俺に気付いていないまま、二人はそのまま立ち去ってしまった。

その次の日、跡部さんはあの女子と付き合い出した。

その日初めて後悔の二文字を実感した。跡部さんにあの女子を紹介したのも、先輩が跡部さんを好きだと知った上だ。自分でも卑怯だと思った。その反面、先輩と付き合えるかもしれないと喜ぶ自分もいた。しかし跡部さんに彼女が出来ても先輩は跡部さんを想い続けていた。
ついに、一年という年月が経った。それでも先輩は俺を一度も見てくれなかった。それどころか、前よりも何処か避けられた。

「先輩は、不毛な恋だと思わないんですか。」

一年前から、俺も先輩も変わらないままだった。先輩の後悔は、跡部さんに「おめでとう」と言えないことだと俺に打ち明けた。「今から、言えばいいじゃないですか」言葉は早かれ遅かれ相手に伝わる。そんな思いで先輩に伝えれば先輩は自傷するかのように微笑んだ。

「日吉はさ、失恋なんてしたことないんでしょ」
「……ありますよ、でも諦めるつもりはありません」

すぐに言い返せば先輩はハッとした顔をした。そのまま気まずそうに俺を見る先輩の気持ちは痛いほど分かった。それでも俺は純真なフリをする、そういうズルさは跡部さんの時と何も変わっていなかった。

「俺は一年前から、先輩のことが好きです」

言ってしまえば少しだけ楽になった。きっとその分、先輩は苦しむだろう。そんなことを分かった上で俺は言った。

「先輩が部長を好きでも構いません…俺と、付き合って下さい」

言った瞬間酷く自分が惨めだと思った。先輩の恋を台無しにしたのは誰でもなく俺自身なのに。先輩の優しさを知った上での賭けだった。これで振られたら跡部さんに謝ろう、そこまで考えた時先輩は笑いながら「いいよ、付き合おっか」と俺に言った。
俺の心は、これで満たされたのだろうか。

俺が先輩と付き合った次の日、部活後跡部さんに呼び出された。

「あいつと付き合ったらしいじゃねーか、あーん?」

…はい、と肯定すれば「良かったな」と跡部さんは言ったが、本当にそう思っているのだろうか。俺があの時女子を紹介しなかったら、跡部さんは先輩と付き合っていたのではないだろうか。一年前から感じている負い目を、今まで跡部さんにぶつけたことはない。ずっと気になっていた真実も、…聞くなら、今しかないと思った。

「跡部さん、本当は今でも先輩が好きなんじゃないですか。」
「……」
「どうして告白、断らなかったんですか」

俺が聞いても跡部さんは何も話さなかった。どうせなら「日吉に譲ってやったんだよ」とか「お前のせいで変な女と付き合っちまっただろーが」と言われる方がマシだと思った。それでも、跡部さんは俺を責めなかった。

「……恋人と友達、どっちが長続きすると思う?」
「恋人、なんじゃないですか?」

跡部さんは少し哀しげに笑った後「、幸せにな」と言って部室を出て行ってしまった。結局、いくら考えても質問の真意は分からなかった。
このまま…分からないまま、俺は大人になるのだろうか。それとも十五歳になったら、俺が部長になったら、もしくは跡部さん達が卒業したら…いつか分かる日が来るのだろうか。
取り残された俺は、その手がかりすら掴めないまま先輩と付き合うのだ。そしてきっと、別れた後に初めて先輩の笑った意味と、跡部さんの言葉の意味に気付くのだろう。



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