氷姫様に提出◎



「あれ、跡部ってチャリ通だったっけ?」

夕暮れの下校時間帯、他の生徒はみんな急ぎ足で帰って行く中、自転車置き場でうろうろしている跡部がいた。自転車置き場をぐるぐると一周する跡部は、遠くから見ても不振者丸出しだった。跡部に声を掛ければ「車に決まってんだろ、あーん?」と言い返された。じゃあ何で自転車置き場にいるんだよ。

「跡部の車って校門でしょ?こっちは裏門だよ」
「んなこと分かってるっつーの」

いつも思うんだけど、跡部ってテニスしてる時以外何処か抜けてるんだよね。たまにアホというか、なんというか。
いつもの定位置に止めた自分の自転車の元まで行けば、何故か跡部も着いて来た。

「?うん、じゃあまた明日」
「俺様が直々に家まで送ってやるよ」

……は?今、何て言った??俺様が直々に?家まで?送ってやる?誰が?誰の家まで?
そこまで考えた時、やっと言葉の意味が理解出来た。

「いやいいです、遠慮します」
「お前は俺様の提案を断るのか、あーん?」

明らかに不機嫌そうに眉をひそめ、此方を見る跡部の眼力に思わず身構えた。

「…だって、跡部のファンクラブに見られたら困るじゃん」
「俺様は別に困らねーよ」

うん、跡部じゃなくて私が困るんだよね。返事の変わりにため息を吐けば、よく分かっていないのか「一体何が不満なんだよ、」と言われた。

「私と跡部が付き合ってるとか、勘違いされるよ?」
「……そんなことかよ」

手を額に当て、大袈裟に首を振る跡部に若干イラっとしたけど、その気持ちを押さえるよう澄ました顔をした。私偉い、超偉い。今ならハリウッドスターになれる気がする。

「私はさ、根も葉もない噂の元になるのが嫌なの」
「じゃあ本当に付き合えばいいだろーが」
「うんそうだよね、それが良い…って、は?」
「それなら噂じゃなくて事実だろーが」

さも良い案出しました、みたいなドヤ顔の跡部に掛ける言葉が無かった。なんかもう、跡部に振り回されてばかりだ。

「えっと、」
「俺様の告白に驚いて返事もできねーのか、あーん?」

気付けば最初よりも跡部の顔がかなり至近距離だった。慌てて距離を取れば、跡部は私の顔を覗き込みながら「お前のことが好きだ」なんて言うのは反則である。
取り敢えず、恥ずかし過ぎて死にそうな私は、自転車に跨り跡部を置いて全力でその場から逃げた。

翌朝、何時ものように自転車ではなく跡部の迎えの車で登校すれば、瞬く間に校内に知れ渡った。けれど跡部が事前に言っていたのか、嫌がらせなどはされなかった。

「へぇ、自分跡部と付き合ったんや」
「…まぁ、ね?」
「俺も告白するなら自転車置き場で告ろかな」

その後、自転車置き場で告白すれば成功する、なんて噂が出回り、いつの間にか自転車置き場が定番の告白スポットになったのは、また別の話。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -