※とても奇妙な話、死ネタではない
「落ちるのは、怖いと思うか?」
初めて雅治に会った時、そんなことを聞かれた。怖いのは墜ちることだよ、と言えば雅治は笑っていた。
「漢字が違うだけじゃろ」
「ううん、微妙に違うよ」
その違いは?と聞かれたら困るが彼は敢えて私に聞き返さなかった。それから日に日に雅治と仲良くなっていった。「付き合ってるの?」と聞かれたこともあるが、雅治は恋人というより相方のような存在だった。
一度だけ、雅治が柳生に変装して「__さんは、彼のことをどう思っているのですか」と私に聞いたことがあった。少し間を置いて、「雅治は私の大切な片割れなの」と言えば彼は曖昧に笑うだけだった。
何故か分からないが、雅治が誰に変装しても私は直ぐに分かる。後で彼にそう言えば「バレてたんか」と気まずそうに笑っていた。
「雅治は、私のことどう思ってるの?」
「大切な片割れじゃのぉ」
あの時の私と同じことを言う彼は無邪気に笑っていた。その笑みが、一瞬自分と重なった気がした。
「じゃあもしさ、私が彼氏を作って雅治から離れたら、どうする?」
その時初めて、彼が泣いた。何故泣いたのかは今も分からない。ただ、泣き止んだ後に小さな声で「__と俺は離れちゃいけないんじゃ」と言っていた。答えになっていないと思ったが無意識に頷いていた。
気付けば、私たちは一日の大半を一緒に過ごしていた。たまにどちらかの家に泊まる時もあった。家族に彼氏?と何度も聞かれたがその度に「大切な片割れ」と言った。
ある日雅治の家に泊まった時、雅治は急に変な話をし出した。
"__と俺はずっと一緒じゃったんじゃよ。"「…前世から?」"それよりも、もっと前じゃ。"「じゃあアダムが雅治で、エバが私だ。」"そこで俺らは追放されたんじゃ。"「ふーん。」"なんじゃ、信用しとらんのか。"「雅治は覚えてるの?」"勿論ナリ、罪として俺だけ全部覚えちょる。"「私とのことを?」"__のことしか覚えとらん。"「でもスゴい確率だね、また雅治と会えるなんて。」"いつも俺が探してるナリ。"「…どうやって?」"内緒ナリ。"
「この話はもう59回目じゃよ、__は覚えとらんと思うがのぉ」そう言う雅治の顔はどことなく見覚えがあった。
立海が三連覇を逃した翌日、たまたま課題をする為教室にいれば、雅治から電話が掛かってきた。
「もしもし、雅治?」
「今教室におるじゃろ」
「?うん、」
「窓から目を離さんといて欲しいナリ。」
「…何で?」
「今度は__にかけて、俺からおちてみようかの」
「え?」
「来世までサヨナラ、じゃ」
何気なく窓の外を見たら銀髪の男が落下していくのが見えた。彼はただ笑いながら此方を見ていた。思わずボトリ、持っていた携帯を落とした。全細胞が震え上がるような、何かを訴えているような高まりを感じた。
「雅治、おちちゃったんだ」
そこで初めて、大切な何かを失った気がした。