終わらない夏様に提出



週明けの月曜日、他の学校はもう夏休みに入っているのに、うちらの通う四天宝寺中学校は何故か金曜日ではなく月曜日に終業式がある。しかしぶちぶちと文句を言いながらも、皆は学校にちゃんと来た。つまりは、今日学校に行けば明日からは夏休みというパラダイスなのだ。

「よっしゃー!明日から自由やぁぁぁぁぁ!!」

今叫んだのは私では無い。大声で叫ぶ忍足くんは私の気持ちを代弁してくれたようなもんや。

「ちょ、謙也うるさい」

隣にいる白石くんは顔をしかめて忍足くんを注意した。きっと(私以外の)クラスメイトの気持ちを代弁したのだろう。

「白石はテンション上がらんのか!?明日から夏休みなんやぞ!?」
「………知ってるわ」

想像以上の白石くんのテンションの低さに、忍足くんだけでなくクラスの皆がビックリした。

「お前…そんなにショックなんか?」
「は、何がやねん」
「お前が大好きな愛しの…」
「謙也!」

え??白石くん好きな人いたん??今の忍足くんと白石くんの会話を聞いた人はみんなギョッとしていた。露骨に「やってもうた!」という顔をする忍足くんの表情を見れば、白石くんに好きな人がいるんは明確なわけで、

「白石くん、好きな人って誰なん?」
「彼女いるん?片思い?」

当然取り巻きの女子が放っておく訳が無い。みんな白石くんを取り囲む様に尋問を始めた。っていうか隣のうちの席まで被害が及んでるわ。
そんな時運悪く?運良く?担任が教室に入って来たので白石くんを囲んでいたみんなはぞろぞろと自分の席に戻って行った。人が引いて、ようやく隣席の白石くんの姿が見えた。

「白石くんも、大変やなぁ…」

労いの言葉を掛ければ、白石くんは目を丸くして聞き返して来た。

「自分は、気にならへんの?」
「ん?なにが?」
「……俺の、好きな人」

ほんまにいたんや、好きな人。顔を赤くしながら言う白石くんは柄に無く乙女やった。教えてくれんの?と聞けば「せやなぁ…、」と言葉を濁された。

「じゃあ、今日中に好きな人を当ててみてや。これ、俺からの宿題な」
「白石くんからの、宿題?」
「おん、絶対今日中に解いて。」

白石くんの必死さに少し疑問を持ちつつ、取り敢えず手当たり次第可愛い女の子の名前を挙げれば「全員違う、」と言われて遂に行き詰まってしまった。

「ヒント、ヒントちょーだい」
「せやなぁ…、見た目ツルツルで何かもう存在自体可愛くて、俺の心を掴んで離さへん感じやな。ちなみに俺の身近にいるで」

ツルツル?肌のこと?ってか俺の心を離さへんとか、もはや白石くんの感想やし。身近?いっつも一緒にいるってこと、やんな?

「まさか、忍足くん…?」
「ちゃうちゃう!謙也はない!ただのツレ!」

もっと距離が近くて〜とか色々ヒントをくれるけど、全く分からん。そう言えば、忍足くんが白石くんペット飼ってるって言うてたような…

「白石くん!やっと分かったで…」

飼ってるカブトムシ、カブリエルのことやろ!間を空けてから満面の笑みで答えれば、無情にも「…全然違うわ」と宿題の再提出を命じられた。


(全然分からん、もしかして学年違う?)
(学年もクラスも一緒や、むしろ毎日話してる)
(えー…、全然分からん。その宿題終わらんかも)

(…何で自分のことって分からんねん!)



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