「先輩は、不毛な恋だと思わないんですか。」

そういう日吉こそ、喉元まで出かかった言葉をグッと飲み込んだ。どうせ私たちは、お互い報われない恋をしているんだ。

私の好きな人は、一つ下の後輩と付き合い始めた。つまり、私は告白する間もなく失恋したのだ。あいつの口から「付き合うことになった」と聞いた時は、正直泣きそうだった。
私の方が、ずっと前から跡部を見てたのに。それでも、跡部はその子を選んだのだ。悔しくて「どうせ続かないよ」と嫌味しか言えなかった私を、跡部は笑って流した。
そして今日、跡部がその子と付き合って一年の節目を迎えた。私は一年前と何も変わって無かった。未だにあの日跡部に言った言葉を、引き摺っていた。何であの時、「続かない」なんて言ったんだろう。おめでとう、の一言も言えなかった自分をずっと恨んでいた。

「今から、言えばいいじゃないですか」
「日吉はさ、失恋なんてしたことないんでしょ」

そこまで言った時「しまった、」と思った。今までわざと日吉とは恋愛話は避けてきたのに。跡部のことを話すのに必死で、一瞬意識が反れたのだ。慌てて取り繕うとすれば、その隙間に入り込む様に日吉は滑り込んで来た。

「……ありますよ、でも諦めるつもりはありません」

真っ直ぐすぎた日吉の目を思わず反射的に反らした。それはあまりにも純真無垢な目だった。言い換えれば彼は、純粋すぎるのだ。

「俺は一年前から、先輩が好きです」

やめて、言わないで。私を好きにならないで。言葉にならない叫びが脳内で木霊した。そんなことも知らない彼は、私に決定的な一言を告げたのだ。

「先輩が部長を好きでも構いません、俺と…付き合って下さい」

その瞬間酷く彼が滑稽に見えた。それで付き合っても、日吉が辛いだけなのに。それを知っていて言う彼は正気じゃない。
日吉との間に長い沈黙が流れた。時計の秒針が一周した時、ついにリミットが迫り始めた。

「いいよ、付き合おっか」
想像以上に私の口調は軽かった。自然と笑ってしまうほど、自分の中で可笑しかった。跡部が笑って流した意味も、一年後の今日、ようやく理解出来たのだ。


ホント私、何やってるんだろう。



***
日吉→ヒロイン→跡部



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