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学生限定様に提出
幸村くんと付き合ってから、幸村くんの口から「好きだ」とか「愛してる」なんて言葉を、今まで聞いたことがない。告白も私からだし、私が頑張って言った「私、幸村くんのことが好きです」の返事は、俺も、というたった三文字だった。
さりげなく「私のことどう思ってるの?」と聞いても、毎回はぐらかされて来た。流石に毎回だと、私も不安になってくる。
もしかしたら幸村くんは、私のことなんか、好きじゃないのかもしれない。幸村くんは優しいから、嫌々私なんかと付き合ってくれてるのかもしれないし。
少し憂鬱になりながら部活が終わるまで待てば、赤也が走ってこっちまでやって来た。
「先輩っ、部長待ちですか!?」
「うん。って、赤也部活は?」
「今終わったっス!」
いつの間にか、部活が終わってから赤也の頭を撫でるのが習慣になった。今日もいつものように、いい子いい子って頭を撫でようとすれば、誰かに遮られた。
「待った?」
「あ、幸村くんお疲れ様。今日は早いんだね」
「赤也が走るのが見えたからね」
「?」
「何でもないよ」
幸村くんが笑ったので、とりあえず私も笑っておいた。赤也は幸村くんが来た瞬間、すぐにどこかに行ってしまった。
「じゃあ、帰ろうか」
いつもの様に幸村くんの隣に並んで歩けば今日はギュッと手を握られた。
「!ゆ、ゆ幸村くん手、手が」
「あっ、嫌だった?」
慌てて離そうとする幸村くんにブンブンと大きく首を振った。
「ちが、あの、嬉しくて…」
恥ずかしくなって下を向けば、隣からクスクスと笑い声がしたので、顔を上げれば思ったより近かった。
「本当、君はいつ見ても可愛いよね」
平気でサラっとそういうことは言うのに、肝心の欲しい言葉を言ってくれない幸村くんは、ズルい。でも、今日なら何となく言ってもらえる気がして、思い切って聞いてみようと思う。
「幸村くんは、」
「精市」
「?」
「いつになったらさ、俺のこと精市って呼んでくれるの?」
突然そんな事を言い出す幸村くんに驚いた。付き合ってから幸村くんを下の名前で呼んだことなんて無かったし今まで、下の名前で呼んで、とも言われたことが無かったからだ。
「ねぇ、呼んでみてよ」
「………せ、精市くん」
うん、まぁ合格かな。と言う精市くんの顔は何となく赤かった。好きな人の名前を呼ぶのがこんなに緊張するなんて思わなかった。赤也とかなら、気軽に呼べるのに。
「前からさ、思ってたんだけど赤也と仲良いよね」
「…そう、かな?」
「そうだよ。…頭撫でてるの、妬けるんだけど」
さっきよりも少しだけ、精市くんの手を握る力が強くなった。
「じゃ、じゃあ精市くんの頭も撫でるね!」
咄嗟に出た言葉をありのまま伝えれば急に笑われた。
「赤也を撫でるのはやめないんだね」
「あっ、なんか習慣というか…、変な意味じゃなくて!赤也の反応が可愛い、からつい…。でも、精市くんが嫌ならやめるよ!」
しどろもどろになりながら弁解すれば「赤也の頭撫でてもいいけど、俺にはほっぺにチューね」とサラッと物凄いことを言われた。
「精市くんのほっぺ、柔らかそうだから無理だよ!」
なにそれ、と笑う精市くんにスゴくドキドキしてる。でも精市くんのほっぺにチューとか無理だよ。柔らかそうだから触ってみたいけど精市くんはガラス細工並みに繊細だからむやみに触れちゃダメって聞いたもん、仁王くんから。
「ふぅん、仁王…ね」
意味ありげに微笑む精市くんのオーラは少しだけ怖かった。(仁王くんごめんなさい)
握っていた手を突然グイッと精市くんのほっぺまで引っ張られた。
「どう?普通だろ?俺に触れちゃダメとか仁王の詐欺だから、これからは普通に触っていいから。」
っていうか触って、サラッと言う精市くんを直視するのが恥ずかしくて、微妙に目線を反らしながら頷けば優しく頭を撫でられた。
言うなら今だ、今しかない。勇気を出して精市くんを見ればバッチリ目が合ってしまった。
「あの、精市くんは、何で私に"好き"とか言ってくれないの!」
勢い余って叫ぶ様に質問してしまった私に、精市くんはキョトンとしていた。ダメだ恥ずかしすぎて直視出来ない。穴が合ったら入りたい、スゴく。
「もしかして気にしてた?」
「…………うん」
可愛過ぎ、とまた頭を撫でられたけど今回ははぐらかされないようにしないと。
「もしかして、私のことが嫌いなのかなあって。…それで、不安だった」
「まさか。俺さ、軽々しく言える好き、は嫌なんだよね」
「?」
「ふふ。俺さ、本当は独占欲強いんだよね。好き、じゃ表せないくらい好きなんだ。だから、重いとか思われたくなくて、俺も我慢してたんだけど。」
そんなの、言ってくれないと分かんないよ。精市くんの目を見て抗議すれば「じゃあ仲直りのシルシ、」と唇に触れる程度のキスをされた。
「……精市くんって、ズルいよね。」
「ふふ、もう一回して欲しい?」
返事の変わりにほっぺにキスをすれば「愛してる、」と一番聞きたかった言葉と一緒に、唇が重なった。
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魔王祭り第二段。
素敵な企画に参加させて頂きました。