これの続きかもしれない



無理矢理幸村にマネージャーにさせられて、初日で私は根を上げた。

まず人によってスポドリの味を変えないといけないなんて、有り得ない。みんな一緒にしたら物凄く怒られた、特に丸井に。これ以上甘くしたらあんた糖尿病になるよ。
タオルを渡す時は幸村を一番にしないといけない、とかマネージャーになるまで知らなかった。ってか、神の子の言うことが絶対とか、何コレ宗教なの??他校では王様(king)が絶対的権限を持ってるらしいけど。まさかそんな宗教じみたことが立海にもあるなんて。

ボーッと練習を見ていたら何処からともなくボールが飛んで来た。そして見事、私の額にヒット。「このボール当てたの誰!?」とか口が裂けても言えない。何故なら、当てる人なんて一人しか該当しないからだ。

「そんなにさ、練習見たいなら参加すればいいじゃん。」

そういう意味で見て無いから!違うから!慌てて否定しても時既に遅し、幸村はレギュラー全員をコートに集めていた。

「この中からシングルスで試合したい相手を選んで」
「……、はぁ!?」

無理無理!試合なんて無理だってば!幸村に必死に抗議した甲斐も虚しく、いいから早く選んで、と急かされてしまった。

「………じゃあ、柳生」
「却下」

苦渋の思いで相手を指名すれば即座に幸村に否定された。相手選べって言ったの、幸村のくせに。
困った様に笑う柳生を見ながら「柳生は紳士なんかじゃないから、お前に直接レーザービーム当てるかもよ」なんて根拠もないことを言い出した。

「柳生は紳士だから当てないよ」
「いや当てるね、俺が柳生だったら当てる。」

それってただ幸村が私のこと嫌いだから当てるんじゃないの、
喉元まで出かかった言葉をグッと堪えて「じゃあ丸井と、やる」とだけ呟いた。

「丸井と?」
「うん、」
「丸井もボレーの天才だから、絶対お前の顔面にボール当てるよ」

そんな事するのは幸村くらいで、丸井はしないってば。内心そう思いながらも口には出さなかった。

「仕方ないな、俺が相手してあげるよ。他のレギュラーに苦労をかけたなくないしね」

少し演技がかった様子で話す口調の幸村は「最初から俺を指名しろよ」と言っているようで怖かった。

「いや、私まだ死にたくないんだけど…」
「お前相手に本気出すわけないだろう?」

真田と柳に助けを求めようとすれば、さっさと自分の練習に戻って行ってしまった。仁王に助けを求めようとすれば、スッとラケットを差し出された。

「頑張りんしゃい」

いや、無理だって。私死ぬかもしれないんだけど。無駄な抵抗と分かってはいるけれども、必死に仁王にしがみついた。

「ちょ!お前さん離しんしゃい!」
「仁王お願い見捨てないで!」

「へぇ、俺を待たせるなんて良い度胸だね」
突然真後ろからした声にゾッとした。そのまま幸村に腕を掴まれたと思えば、にっこりと微笑みながらとても、とても強く握られた。痛い、掴まれた腕がとても痛いです幸村クン……
そのままずるずると引きずられて一番奥のコートまで行けば、ジャッジペーパーを持っていたジャッカルに「頑張れよ」と言われた。
それが「五感を奪われないように頑張れよ」なのか「頑張って試合に耐えろよ」の意味なのか私には分からなかった。

「サーブは全部俺が打つから、早く立ち位置について」

てきぱきと指示をする幸村の、こういうの姿見るとやっぱり部長なんだな、と思った。渋々コートに入れば、さっきまでいなかったはずのレギュラー面々が勢揃いで私と幸村の試合を見ていた。おい、お前ら裏切ったな。

「じゃあいくよ、」

幸村がボールを高く上げ、ラケットを振りかぶったと思えば一瞬でボールが見えなくなった。

「15ー0」

え、なに今コートに入ったの?全然ボール見えなかったんだけど。ってか本気出さないって言ったじゃん。
その後もサービスエースで私がボールに触れることもなくどんどん幸村に点が入る中、違和感を感じた。あんだけうるさかった歓声が、今は全く聞こえないのだ。更に、段々と視覚も奪われつつある。

このままだと五感が奪われる、

視界不良で無音の中、必死にラケットを振ったが擦ることすらままらなかった。そのうちラケットの感覚も分からなくなって、そこからはもう幸村の手の内だった。
見えない、聞こえない、何もかも分からない……。そんな中、ふと唇に違和感を感じた。触覚も奪われているはずなのに、
不思議に思って目を開ければ、急に視界が開けた。今まで聞こえなかった耳もはっきりと作動するようになった。
目の前にはコバルトブルーの髪を揺らしながら、にっこりと笑う幸村がいた。

「ゲームセット、お前の負けだ」

唇に手を添えながら言う幸村の言葉が、いつまでも頭から離れなかった。



***
魔王祭り第一段



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