テニス部のマネージャーなんてやるもんじゃない、私が立海に入学して半年経った頃、周りの子はみんなそう言っていた。他の部活よりも、目立って入れ代わりが激しかった。テニス部のマネージャーで一年続ければ、異性からだけでなく同性からも勇者だね、と言われる程だ。しかしテニス部のマネージャーは特に倍率が高かったので、途切れたことは一度もない。何故マネージャーが続かないのか、疑問に思ったが私には関係の無いことなので噂も特に気にしなかった。
中学三年になって、部長の幸村と同じクラスになれば毎日のように「マネージャーにならない?」と勧誘された。その度に丁重にお断りしていたが彼が諦める訳がなかった。
六時間目が終わる十分前に教室に入って来た幸村に、みんなが驚いた。制服ではなく、レギュラージャージを着ていたからだ。
「ねぇ、着いてきて」
私の目の前まで来たと思えば、強引に腕を掴まれ無理矢理引っ張られるように歩かされた。
「ちょ、ちょっと幸村!」
そのままズルズルと引き摺られて、気が付けばテニスコートまで来ていた。
「…授業中、だったんだけど」
「ちょっとくらい大丈夫だから」
そのままラケットバッグからラケットを二本取り出せば、無言で片方を私に差し出した。
「…なに」
「俺と打って」
「、は?」
「テストするから、俺と打って」
なにこいつ。頭イッてんじゃないの。大体、テストって何の。それより立海テニス部の部長の幸村とまともに打てるわけないじゃない。幸村って五感奪うらしいじゃん、
「…殺す気?」
「テストだって言ってるだろ」
何時までもラケットを受け取らない私に苛ついたのか、無理矢理ラケットを握らされたので仕方なくコートに入った。
「…って、制服のまま?」
「いいから打つよ」
幸村によって打たれたボールは想像以上にゆっくりだった。タイミングを合わせてラケットを振れば、ロブだがきちんと幸村のコートには返った。
「うん、合格。」
満足そうに彼が頷いたかと思えば、突然羽織っていたジャージを迷う事なく此方に放り投げた。思わず落ちたら汚れると思い、反射的に前屈みになって受け取れば「それ、着ていいよ」と言われた。
「いや、でもこれ幸村の……」
「お前も今日から、テニス部だから。」
…は?思わず開いた口が塞がらなかった。私が、テニス部?
「嘘だあ、」
「本当。」
悪魔みたいな笑みで微笑まれたら、それ以上突っ込めなかった。え、ちょっと、これドッキリじゃないの?仁王とか丸井が「こいつ騙されちょる」「だっせ」とか言いながら出て来るんじゃないの?周りをキョロキョロと見渡しても私と幸村以外誰もいなかった。
「…何してるの」
「いや、仁王と丸井はまだかなって」
「まだ来ないけど。あっ、でも後でちゃんと紹介するから、安心して。」
え、なに言ってんの幸村。私仁王とも丸井とも知り合いだし。今更紹介されなくても、
「だから、新しいマネージャーが決まったって」
「え、?」
「今日からお前が、玩具だから。あ、せめて一ヶ月は楽しませてね。今年は三連覇もかかってるんだし、」
満面の笑みの幸村とは逆に私の顔は引きつっていた。今までマネージャーをやめた子達は思えばみんな、XXXだった。
「俺さ、ずっと前からお前を狙ってたんだよね」