※仁王が廃人化します
ドラッグ、だめ。絶対。







「俺の血管に虫がいちょる」
「髪の毛が赤に変わったナリ」
「__の皮膚が紫色じゃ」

最近、仁王が変なことを言い出した。仁王とはかれこれ三年の付き合いになる。前々から変な奴だとは思ったが、私といる時に幻覚症状を訴えてくるようになった。一度幸村くんに相談しようか迷ったが、テニス部の前では普通に振る舞っているのを見ると、何となく言いにくくなってしまった。
それから数日経ったある日、たまたま屋上で仁王が白い粉を吸っているのを見てしまった。

「…なに、やってるの」
「__も吸う?」
「いらない。てかアンタ正気?それさ、」
「幸せの粉ナリ。」
「…は?」
「毎日吸うとおかしくなるけ、週一で我慢しちょる」

平然と言う仁王に驚いた。幸村くんに言わなくて、正解かもしれない。もし知ったら、絶対病気が悪化する。取り敢えず仁王を一発殴って粉を捨てた。それでも仁王はずっと笑っていた。

それから週一が三日に一回になった。やめろと言ってもあいつは聞かなかった。怒っても笑って、何でなん?と逆に聞き返された。その度に粉を捨て、仁王を咎めた。あいつは異常なのだ。

「もうダメじゃ、死ぬかもしれん」

夜中の一時、切羽詰まった声で仁王からそんな電話が来た。どうしても無視する気になれず、親の目を盗んで家を出た。仁王は今どきの中学生にしては珍しく、一人暮らしをしている。両親がいない、とかそういった理由ではない。本人が独りを好むからだ。仁王の住むアパートの前に行けばあいつの部屋だけ明かりが付いていた。ノックをする前にガチャリと開いた扉に戸惑う事なく入ればいきなり抱き締められた。

「__!」

チラリと部屋に目をやればパイプが転がっていた。無言でそれを見つめれば焦った様に弁解した。

「違うんじゃ!吸っちょらん!今日は__が来るから我慢したぜよ!」
「仁王、」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」
「…分かったから、落ち着いて」

憔悴した様子で首を振る仁王の頭を撫でれば、取り敢えずは落ち着いてくれた。それからガリガリと爪を噛み、頭を掻き毟り始めた。

「粉、吸いたい、死ぬぜよ」
「死なない、仁王は粉なんて吸わなくても死なないよ」
「…殺されるナリ」

必死に爪を噛む仁王を何も言わずに抱き締めた。何で仁王は麻薬なんかに手を出したんだろう。何で私にいつも助けを求めるんだろう。
そんな時仁王の携帯が鳴った。ディスプレイを見ればブンちゃん、と書かれていた。

「仁王、丸井くんから電話」
「ブン…ちゃん…?」
「出ないの?」
「………」

何も言わないままの仁王をジッと見つめれば、言いにくそうにポツリと語りだした。

「…今日、ブンちゃんにバレたんじゃ。そしたらの、幸村や真田に言うって。じゃから、俺…」
「仁王!!!」

そこまで言い掛けた時、玄関の方から何度も仁王を呼ぶ声が聞こえた。それでも仁王は反応せず蹲っている。暫らく扉を叩く音が聞こえたが、不意に「入るよ」と聞こえたと思えばガチャリと玄関が開いた。

「…仁王くん」

入って来たのはテニス部のレギュラーだった。普段よりも低い声で呼ぶ柳生くんは、きっと怒っている。柳生くんだけじゃない、丸井くんも幸村くんも赤也くんも、みんな、怒ってる。急に幸村くんが私から仁王を突き放し、襟首をわしづかみにした。

「仁王、君は分かってるのかい?君は立海テニス部のレギュラーなんだよ」
「落ち着けよい幸村くん、」
「落ち着いていられるわけないだろう丸井。仁王は…テニスプレーヤーとして、いや人間としてやってはいけないことをしたんだ」

仁王を睨みながら言う幸村くんに誰も口出し出来なかった。幸村くんが正しい、みんなそんなこと分かっている。それでも、助けてと手を差し伸べる仁王を見放すなんて、私には出来なかった。

「仁王、もうやめようよ。幸村くんが怒るのは、仁王を心配して…」
「__は幸村の味方をするんか。俺を見捨てて幸村と付き合うんじゃろ!俺を、俺を!」
「落ち着け仁王」
「いい加減にしなよ。みんなお前を心配してるんだ。…明日、病院に行こう。」
「嫌じゃ」
「でもそれじゃあテニスが…」
「もうテニスなんかせん」
「……は?」
「やめる」
「嘘、だろい…?」

仁王を揺さ振る丸井くんの目からは涙が溢れていた。ずっと幸村くんの後ろから見ていた赤也くんは呆然としていた。

「もうテニスなんかせん。」

ガリガリと爪を噛みながら笑う仁王にみんな目を疑った。嗚呼、これが仁王のイリュージョンなら、どんなに良かっただろう。それでも、仁王の爪から流れる血は本物だった。



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -