中学の時からずっと柳生が好きだった。

生徒会に入ってから知り合った柳生とはすぐに意気投合して仲の良い友達になった。その後、テニス部のマネージャーとして入部してからは一緒にいるうちに、柳生の人の良さを感じて自然と好きになった。そんなある日、放課後柳生に生徒会室に呼び出された。何か書類に不備があったのかと思い、急いで向かう途中担任に雑務を押し付けられ、気付けば下校時間ギリギリだった。柳生には悪いと思いながら生徒会室に向かえば既に誰もいなかった。翌日、柳生に昨日のことを謝罪すれば「気にしないで下さい」と言われ、それからすっかりあの日のことは忘れていた。

卒業式当日、何故か仁王に呼び出された。勿論仁王とも仲の良い友達なのだが、柳生や幸村ほど私と仲良くはない。呼び出された屋上に行けば既に仁王がいた。着崩れていない制服を見るのは珍しいことだ。

「制服、ちゃんと着れるんだね」
「失礼な奴ぜよ。幸村がの、卒業式くらい真面目に着ろって煩いんじゃ」
「ふうん。…で、何で呼び出されたの私」
「話があるき」
「うん」
「柳生はお前さんのことを好いとうよ」
「………………え、?」

仁王から告げられた言葉は耳に入ったはずなのに頭まで届かなかった。
柳生が、私を、好き?
まさか、何かの間違いだ。きっと「私が、柳生を、好き。」の間違いなんだ。動揺している私とは逆に、仁王は酷く落ち着いた顔で続けた。

「お前さん、柳生に生徒会室に呼び出されたじゃろ。柳生がの、その前日にお前さんに告白するんじゃ、って俺に言ったんじゃ。部活を休んでギリギリまでお前さんを待っちょったみたいじゃけど。入れ違いになったみたいじゃのぉ。暫くは相当ショックを受けちょったみたいじゃけど…」

仁王の言葉の大半は私の頭に入らなかった。嘘、柳生が私に告白?それでも卒業式、柳生とは友人として接した。何もないまま卒業したけれど、屋上での仁王の言葉が私の脳裏から離れることはなかった。

あれから十年、久しぶりにテニス部のレギュラー全員で集まろうと柳が計画してくれたので、マネージャーだった私も呼ばれた。私は外部の高校、大学を受験したので立海にいたのは中学時代の三年間だけである。たまに(半年に一回程度)集まりはあったけれど、ちゃんとレギュラー全員が集まるのは今日が初めてだった。待ち合わせの居酒屋に行けば、十分前なのに既に赤也以外全員がいた。

「遅いよ」
「みんなが早過ぎるだけだよ、まだ十分前じゃん。…赤也は?」
「遅れて来る確率、九十七%」
「じゃあ先に乾杯しよーぜい」
「と、お前は言う」
「………」

相変わらず勝手な丸井と仁王は既にお酒を飲んでいた。髪だけではなく顔まで赤い丸井の横に座れば、早速生ビールを注文した。女なのに生かよ、と丸井に言われたけれど気にしない事にした。

「__は彼氏とかいねーのかよい?」
「ま、さ、か。いるわけないよ。もしいたら、今日来てないかも。」
「ほら、仁王。俺の予想当たっただろい?やっぱ俺って天才的」
「丸井と仁王はいそうだよね」
「俺いまフリー。ってことで可愛い子紹介シクヨロ。仁王は好きな奴が…」

そこまで言い掛けた丸井に「ブンちゃん!」と仁王が叫ぶので、私や丸井だけではなく他のレギュラーもびっくりした。仁王の顔を見れば今にも泣きそうだ。

「わ、悪ぃ。この話はやめよーぜい。…お前なに食べる?」
「じゃあ、焼き鳥。」
「__はいつの間にオッサンになったんじゃ。」
「あ、ネギマで」
「お前…中学の頃はこんなんじゃなくて、もっと女の子っぽくてしおらしかったろい。俺お前のことスゲー可愛いと思ってた。」
「時が経てば、みんな変わるもんなんだよ。」

チラリと柳生を盗み見すれば、幸村や真田と談笑していた。その時に初めて、彼の左手の薬指に指輪があったことに気付いた。少しだけ胸が痛んだけれど、それは失恋とは別の気持ちだった。

「ごめん、幸村のとこ行って来る」
仁王と丸井に断りを入れて少し席を移動すれば幸村が柳生の向かいを空けてくれた。幸村は真田とどこかに行ってしまったので、必然的に柳生と二人になった。

「柳生、久しぶり」
「!お久しぶりです。綺麗になっていたので一瞬気付きませんでした。」
「柳生も相変わらず紳士なんだね」

そんなことないですよ、と謙遜するあたり柳生らしい。何か話題を探そうと枝豆に手が伸びれば不意に柳生が話しかけてきた。

「__さんは、私が生徒会室に呼び出した日のことを覚えていますか?」
「…うん」
「実はあの日、貴方に告白するつもりだったんです」
「あー…、卒業式の日に仁王から聞いちゃった」
「!そうでしたか…、仁王くんらしいですね。もしあの日告白してたら、どうなっていたんでしょうね。」
「私も、中学の時柳生が好きだったから付き合ってた、と思うな。」
「…そうだったんですか。あの日のことは、少しだけ後悔していたので今日話せて良かったです。」
「私も話せて良かったよ。…結婚してるんだよね?おめでとう」

指輪を見ながら言えば恥ずかしそうに、去年籍を入れたばかりなんです、と話してくれた。

「人生で好きになった女性は、妻と貴方だけなんですよ」
「私の初恋も柳生だよ。初恋が実らないって本当なんだね」

(柳生はお前さんのことを好いとうぜよ)
不意にあの日の仁王の言葉が浮かんで、泣きそうになったけれど堪えた。もしあの日、担任の雑務なんて断ってきちんと返事をしていたら、何か変わっていたのだろうか。

「……私が言うのも何ですが、仁王くんは意外と一途でいい人ですよ。」

何で仁王?と柳生に聞けば、曖昧に笑うだけだった。そのあとすぐに幸村に絡まれて、柳生にさっきの言葉の意味は聞けなかった。
途中で帰った柳生とジャッカル、いつの間にかいなくなった仁王抜きで二次会に行き、家に帰る頃には外は明るんでいた。一人感傷に浸りながら帰宅すれば、何故か玄関の前に仁王が座っていた。

「に、おう?二次会は…」
「俺は十年待ったんじゃ」
「え?」
「中学の入学式でお前さんに一目惚れしてから、ずっと片思いしちょった。」
「う…そ」
「お前さんが柳生を好いとうことくらい知っちょったからのぉ。」
「……」
「こういう時に慰めるなんて、ずるい男じゃろ」
「…今ごろ仁王の良さに気付くなんて、ね。私の方が、ずるい女だよ」

柳生、やっと言葉の意味が分かったよ。十年も待たせてごめんね、仁王。抱き締められた瞬間、そっと背中に腕を回した。



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