最近、近所のコンビニで人生初のアルバイトを始めた。
ありきたりの理由だけど、遊ぶお金が欲しかったから。

「いらっしゃいませー」
「全然声が出てないよ、マイナス三十点。」

横にいるかっこいい男の人は私の先輩であり、師匠である幸村精市さん。

「…すみません。」
「何回言えば分かるの?」

幸村さんは見かけによらず人に厳しい。(自分にも厳しいみたいだけど)
最初のころは「こんなかっこいい人が先輩なんてラッキー!」とか思ってたけど、今は真逆だ。
とりあえず、シフトが被っている日は一日ブルーになる。
っていうか毎回被っているのは店長の嫌がらせなのかな、うん。

「もう上がっていいよ」
店長の掛け声でレジを閉めて、別の先輩と交代した。
やっと終わったーと思って事務所に戻ろうとすれば、幸村先輩に呼び止められた。

「上がる前に品出しだけしておいてよ。特にスイーツのところ、スカスカなんだけど。」
「……はい。」

勿論逆らえない私は、残って品出し。
幸村先輩の接客を覗き見したけど、やっぱり凄い。
私と同じ高校生には思えない。
笑顔が爽やかだし(私の前では二コリともしないけど)、優しそうだし(私には特に厳しいけど)、…あれ、私嫌われているのかな?
思い返せば嫌われている様にしか思えない。
さっきの品出しもそうだし。
嫌われているのかも…そう思えば無性に悲しくて、さっさと品出しを終えて帰ろうと思った。
急いで帰る用意をして、事務所を出ようとしたらばったり幸村さんと出会ってしまった。

「…ねぇ、なんで先に上がるの」
「え、あの、私…」
「もういいよ。ちょっと待ってて。」
妙に不機嫌な幸村先輩を待てば、たまたまクラスメイトの赤也と会った。

「何してんの?」
「赤也じゃん、最近私ここでバイトを始めたの。」
「ふうん、…あ。じゃあ幸村部長と一緒じゃね?」
「…幸村先輩のこと?」

赤也に聞き返そうとすれば、さっきよりも更に不機嫌な幸村先輩が私の真後ろに立っていた。
「…なにしてるの、赤也」
「!幸村部長、違うんスよ。たまたまアイス買いに来ただけで…」
「ふうん。明日の朝練、覚悟しておいた方がいいよ。」
と意味深な発言を残したまま幸村先輩に引っ張られる様に外へ出た。

「ねぇ、赤也と知り合いだったの?」
「え、あ…はい。クラスが一緒で。」
「…ふうん」

自分から聞いたくせに、すごく興味なさそうに返された。
何なんだこの人。
本当に幸村先輩の考えている事は分からない。

「赤也と仲良いんだね。」
「まあ、クラスメイトですから…」

幸村先輩は意外と歩くのが速い。追いつくのに必死だ。
絶対怒ってる(気がする)。オーラもいつもより黒いし…。

「ねぇ、なんで怒ってるか分かるかい?」
「え、…あの。声が出てなかったから、ですか?」

急に立ち止まって振り向いた幸村先輩は少し困ったように微笑んだ。

「嫉妬しちゃった、」
「はい?」
「好きなんだ、君が」
「え……」
「ふふ、あほ面も可愛いね。」

宙ぶらりんだった私の手を掴んでまた歩きだす幸村先輩に恋をするまで、あと5秒。




















可愛い子ほどいじめたいゆっき。



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