私には許嫁がいるらしい。
それを初めて聞いたのは、中学1年生になった時だった。
相手は幼なじみらしく、幼稚園の時仲が良かった「ゲンチャン」という子らしい。
しかし私には身に覚えがない話で、相手の顔すら思い出せない。
そんな人と結婚が決まってるなんて嫌だ、絶対に嫌だ。
私だって好きな人と結婚して、子供を産んで…そういう幸せな家庭を夢見る女の子なのだ。

そんなアホな私が、奇跡的に立海大附属中学に入学できた。
たまたま同じクラスになった幸村くんに、テニス部のマネージャーになってほしいと頼まれた。
普通に部活に入るよりマシかな、と思い(あとすごく断りにくかった、雰囲気が。)安易に承諾したのが不味かった。

「たるんどる!!!」

そう、私は真田くんが苦手なのだ。
まず初対面の時に「顧問の先生ですか?」と聞いてしまったのが悪かった。
その時の真田くんのオーラに戦慄を覚えた。
幸村くんは笑っていたけど(笑事じゃない)、その出来事のせいで私と真田くんの間には何というか…、見えない溝が出来た。
そしてそれは未だにトラウマなのだ。

そんなある日、許嫁の相手と食事をする機会ができた。
運悪く部活と被ってしまい、悩んだ結果部活を休むことにした。
幸村君に部活を休むと伝えたところ、「奇遇だね、真田もその日は用事があるらしいよ。大丈夫、君と真田がいなくても俺がしっかり仕切るから。」と何とも同じ部活の仁王や丸井たちが気の毒に思えてしまった。
……ごめん仁王、丸井。



当日になれば、普段は絶対にこんなフリフリ着ないし!と突っ込みたくなるようなワンピースを着せられた。
母も無駄に(と言えば怒られた)化粧をして、許婚のゲンチャンとの待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所がやけに近場のフランス料理屋で、「ん?」と思ったけれど相手が幼なじみなら近所に住んでいるのかも…と思って気にしないことにした。
中に入れば既に相手のお母さんとゲンチャンが…、ゲンチャン…?
見覚えのあるというか昨日も見てたようなさな、だ…くん?

「えっ!さささ、真田くん?!」

ない、ない、絶対ない。
ゲンチャンが真田くんなんて絶対ない、嘘だ。

「__、弦一郎くんと知り合いだったの?」
「ゲンチャンって。…う、そ」

アンビリーバボーなことに真田くんと食事をすることになった。
信じられない、もしかしたら明日地球は滅びるのかもしれない。

「も、もしかして真田くんは私のこと…」
「無論、知っての上だ」
「ですよねー」

はぁ、と溜め息を吐いて渋々席に座るが何というか…落ち着かない。
だって目の前には苦手な真田くんだしまさか同級生に許婚がいて、その彼が真田くんなんて可笑しな話だし。
そんな私とは正反対に母も真田くんのお母さんも盛り上がってる。
実は私真田くんが苦手なんですぅ…とか言いにくい、非常に。
結局私と真田くんはほとんど会話を交わさないまま食事会は終わった。
帰り道に「本気で結婚するの?」と聞けば、母は笑いながら「あなたたち次第よ」と言っていた。
真田くんは、どう思ってるんだろう。



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