朝の日差しに照らされ
「ウサ吉と住むことになった。」


寮に戻って開口一番、そう言うと靖友は口をあんぐり開けて俺を見た。


「それ、本当なのォ?」
「ああ、日曜でここを出る。」
「……フーン。」


何か他にも言いたそうだったが、それ以上靖友はなにも言ってこなかった。ああそうだ、日曜までに荷物をまとめておかないと。それに店長である寿一にも言わないと。やることがたくさんあってめんどくさいはずなのに、それが終わればウサ吉と一緒に暮らせると思うと、さほど苦ではなかった。むしろワクワクしていた。


「新開さん、なんか楽しそう。もしかして良いことでもありました〜?」


営業中に真波は突然そんなことを言い出した。俺の隣に座っている客はそれを聞いてなんとなく嬉しそうに俺を見る。はは、違うんだけどなぁ。けれどここは空気を読んで、俺も作り笑顔で対応する。たまに真波が素になって話しかけてくるから困るが、この客のお気に入りのヘルプだから着くなとも言えない。シャンパンを煽れば意図も容易く卸すことに成功した。…そろそろ次の席に回らねえと。


ーーー


営業終わりのホストは、皆死人のようだと俺は思う。痛む頭を押さえて寿一に寮を出ることを告げれば、「そうか」としか言われなかった。別にお金がなくて寮に居たわけではないから、寿一も引き留めなかったのだと思う。


「新開。一緒に暮らすなら、きちんと話した方がいいのではないか。」
「…ああ、ちゃんと話すさ。」


寿一が何を、とあえて言わなかったのは俺の心を察してだろう。この職業のことも、彼女には言っていない。けれど夕方に出て行ったり、朝に帰ったり、まあ普通に考えてちゃんとした仕事ではないということは、薄々気付いているとは思う。けれど俺自身の口から言うのが怖かった。それ以上に、それを知って彼女が離れていくことが。


彼女のことが好きだと思ったのは、もうずっと前からだ。いずれは結婚して、幸せな家庭を築きたいと思っている。寮に戻って荷物をまとめていれば、靖友に飲みに行かないかと誘われた。今日は店も休みだから、別に困りはしない。適当に置いてあった私服に着替え、携帯と財布だけを持って寮を出た。

平日の夕方から飲む客なんて少ないらしく、居酒屋に行けばガラガラだった。個室に通されとりあえず生二つで、とアルバイトの若い女の子に笑顔で注文する。少し顔を赤らめて去って行く女の子を可愛いなぁ〜なんて見ていれば靖友に足で突かれた。


「浮気かヨ。」
「いや、そういうのじゃないって。条件反射みたいなモンだろ。」
「アッソ。」


運ばれた生をゴクリと飲み干す。枝豆に手を伸ばしたとき、「辞めんのォ?」と靖友が俺に聞いてきた。辞める、辞める、辞める?三回くらい頭の中で復唱してから靖友を見る。ジッと俺を見つめるその瞳が、まるであの日の彼女みたいで怖かった。


「仕事か?いずれは辞めるさ。段取りだってあるから、すぐにじゃないけどな。」
「なぁ新開。俺たちはホストだヨ?色んな女に貢いでもらってるから、今の俺たちがあるって思うんだよネ。散々貢がせて切ったやつなんて一人や二人じゃないだろォ?」
「…そうだな。」
「別に幸せになるな、なんて言わないけどォ。前みたいに過去は無かったことには出来ないってことォ。」


そんなこと、わかってる。
言おうと思っていたのに、喉になにかがつっかえて言えなかった。

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -