奇妙な関係が始まる

「一緒に住まないか?」


ご飯を食べに行かないか、と普段誘うように隼人に言われた。誰と誰が住むの?と聞けば「俺とウサ吉。」と彼は言う。


「えー、どうしよっかなあ。」
「楽しそうだろ?」
「まあ、確かに。」
「じゃあ決まりだな。」


そんな軽いノリだったから、わたしは本気にしてなかった。今までに隼人がわたしの家に泊まるなんてよくあったし、一週間程度の長期滞在も過去にはある。ごろんと私のベッドに横になる隼人は、何処と無く嬉しそうだった。わたしも彼の隣に寝転び、瞼を閉じる。「……オヤスミ、」彼の声は、すーっと意識の奥深く、深層部に溶けていった。


目が覚めると隼人は消えていて、机の上にメモが置いてあった。
【日曜にまた来る】
そのメモを冷蔵庫に貼り付け、朝御飯のパンを頬張る。昨日の彼の言葉が、やけに鮮明に浮かんでくる。本当に一緒に住むのだろうか?

隼人との関係を振り返ってみる。彼とはたまにセックスもするし、二人で出掛けたりお揃いのモノを使っている。現に、今珈琲が入っているこのコップは彼とお揃いだ。端から見れば、恋人同士だと思われても仕方がない。けれどわたしと隼人は付き合ってはいない。彼に恋人がいるのかは分からないが、わたしに恋人はいないので、まあ友達以上恋人未満だと勝手に思っている。

しかし困ったことに、わたしは隼人のことを何一つ知らない。


隼人と出会ったのは、夜の公園だった。友達と飲んだ帰り、酔いを冷ます為に近所の公園に行けば、彼が先に座っていた。


「こんな夜中に一人じゃ危ないぜ。」
「家、近いんで大丈夫です。」


それから私達の間に会話らしい会話はなかった。どのくらい経ったのかは分からない。わたしには一時間くらいに思えたけれど、もしかしたら十分くらいだったかもしれない。立ち上がって元来た道を戻ろうとすれば、彼に腕を捕まれた。


「おめさん、名前は?」
「……えっ?」
「名前教えてよ、名前。俺は隼人。」


彼が名字を名乗らなかったので私も下の名前だけを教えた。隼人さんは私に、家まで送ろうか?と言ってきた。


「近いから大丈夫です。」
「まーまー、そう言わずに。」


家、どっち?と立ち上がる彼の手を振り払う気にはなれなかった。あっち、と指をさせば隼人さんはその方向に向かって歩き出す。ジッとその場に立ち尽くしたままの私を見て彼は笑った。


「大丈夫、送るだけだから。」


結局送るだけ。なんて言っていたクセに、マンションに着けば当たり前のようにオートロックの向こう側まで彼はついてきて、無下に追い返すことも出来ずに家に上げてしまった。一人暮らし?と聞かれて頷けば、隼人さんはまるで自分の家にいるかのように寛ぎだす。お茶くらいいいか、と送ってもらったお礼をかね珈琲を出せば、彼は珈琲が飲めないと苦笑いで言ってきた。


「あ、飲めないんですか。」
「苦いのは好きじゃないんだ。それと、敬語はやめよう。」
「隼人、さん…はおいくつなんですか?」


25、と彼は言った。年が近そうな感じはしたが、私と同い年だとは思わなかったので素直に驚いた。幼く見えるのは、隼人さんが童顔だからだと思う。正直、大学生にしか見えない。


「隼人でいいよ、俺もウサ吉って呼んでもいいか?」
「…いいよ。」


じゃあヨロシクな、と握手をしたその日から、彼は私の家に頻繁に入り浸るようになった。最初の頃は何なのこの人と思ったりもしたが、慣れとは怖いものだ。一ヶ月経った頃から隼人がいることに違和感を感じなくなり、三ヶ月目に彼は勝手に合鍵を作っていた。怒るべきなんだろうけど、別にいいやと思ってなにも言わなかった。どうせ盗まれるような高価なモノなんてうちにはないんだし。
彼の職業は聞いていない。けれど夕方に出て行って朝に帰って来ることが多いので、きっとろくな仕事じゃないのは薄ら気付いていた。毎月彼から居候代としてもらう金額は、私のお給料一ヶ月分だったりする。直接は聞いていないけれど、まあそういうことなのだろう。


そしてこんな関係が、気付けば半年も続いていた。

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