※花宮が少し暴力的


霧崎第一高校に入学した私は、変な人に目をつけられてしまった。


変な人、と言えば語弊があるかもしれない。彼は見た目はいたって普通の人だ、…ちょっと眉毛が濃いけど。彼の名は花宮真。バスケ部に所属していて、詳しくは知らないけれど強いらしい。女子から人気が高い花宮君だが、ぶっちゃけ私は苦手だ。何故かと言うと、私に対してひどく暴力的だからである。隣の席なので毎朝(一応社交辞令的に)おはようと挨拶すれば、気持ち悪い笑顔で足を踏んで「よぉブス」と返してくる。最初はびっくりして他の友達に「花宮くんって性格歪んでる?」と聞きまわったが、皆「バスケではいろいろ酷いらしいけど、普段は普通だよー」と返される。もしかして帰宅部の私をバスケ部だと勘違いしているのだろうか?その後も私に対する嫌がらせが続いたが、他の女の子にそういう酷いことをしているのは一度も見たことがなかった。いずれ直ると思っていたが、彼の暴言や暴力は悪化していった。


ある日私が日直でプリントを集めていれば、わざとらしくぶつかられ、持っていたプリントを落とすのを見て「だっせぇ」と花宮くんは大笑いした。またある時は、体育の授業でバスケをしていて(わざと)顔面にボールを当ててきたり、他の人には見えない死角で膝や肘をタックルされた。試合が終わってボロボロな私に「ふはっ、大丈夫かよ」なんて良い人ぶって尋ねるのだ。しらこいにもほどがある。その他にも歩いていたら足を引っ掛けられて階段から落ちそうになったり、二階の窓から私に向かっていろいろ落とされたり…。書ききれないくらい彼に酷いことをされた。


なので私は決めた。彼を避けてなるべく関わらないようにしよう、と。運よくその日のHRで席替えがあり、彼とは教室の端と端くらい離れた。翌日から全神経を集中させて彼を避け始めた。半径1メートル以内に彼が入るようなら、即座に何食わぬ顔でその場を離れて、息を潜めるようにして自分の存在を消した。そんな日が10日ほど続いたある日、ついに恐れていたことが起こってしまった。


「えー、今日の日直の二人は昼休みに社会科準備室に行って、資料をまとめておくこと」


担任の言葉が私にはまるで呪いの呪文のように聞こえた。今日の日直は、えっと。首をギギギとゆっくり黒板の方に向ければ、そこには私の名前の隣に花宮真と書いてある。どれだけ目を擦っても瞬きしても、花宮真の文字は変わらない。あれ、おかしいな。花宮くんって、どの花宮くんだっけ。ちらりと教室の隅に座っている花宮くんを見れば、あの気持ち悪い笑顔で私を見ていた。まさに最悪だ。


それからというもの、授業中でも昼休みのことしか考えられなくなり一時間目の古典も、二時間目の数学の連立方程式もさっぱり分からなかった。しかしよくよく考えればバスケ部は昼休みに昼練というものが存在しているし、今まで花宮くんが真面目に日直の仕事をしているのを見たことがない。それに気付いた時、今ならユニセフに五百円寄付できるくらい嬉しくて心が跳ね上がった。そうだ、そこまで真剣に考えなくても彼はサボるに決まっているのだから、一人で作業したらいいだけじゃないか。真剣に考えていたのが馬鹿らしくなって三時間目の英語と四時間目の世界史は生き生きと授業を受けれるようになった。


「おいさっさと行くぞ」


しかしそんな空想はあっけなく崩れ落ち、今私の目の前には制服姿のままの花宮くんが立っている。ほんの数秒前に四時間目の終わりのチャイムが鳴ったとこだったのですっかり油断していた。え?という顔をすれば「日直の仕事あるだろーが」と当たり前のように返された。あの、昼練は…と今にも消えてしまいそうなか細い声を出せば「日直をサボるわけねぇだろバァカ」と馬鹿にしたような口ぶりだ。いやあんた今までサボりまくってたじゃないですか。いつまで経っても固まったままの私を見て早くしろと言わんばかりに腕を引かれた。ちょっと、と抵抗してみてもそこは男と女の差があるのでほとんど無意味に近い。ずるずると無理矢理引きずられるようにして社会科準備室に辿りついた時には、私の体はへとへとに疲れ切っていた。ただ引きずっていたのではなく、こいつはわざと私が壁にぶつかるように歩いていた。なので痛い、身体が非常に痛い。ざまあみろと言わんばかりに花宮くんは私を見て笑っている。なんだか理不尽な気がしてきた。わたしは何もしていないのに。花宮くんはきっと私のことが嫌いでこんな暴力的なんだ、って思えば自然と涙が出てきた。急に泣き出した私を見て、花宮くんは慌てる様子もなくそっと自分のハンカチを差し出し「泣くくらいなら使えよ」とぶっきらぼうに言い放った。


「…なんでこういう時だけ優しくするの?花宮くん私のこと嫌いでしょう?」
「は?俺がいつお前のこと嫌いなんて言ったんだよ」


だって…、と言葉を濁せばガンッと真横で音が鳴った。見れば彼は思いっきり不機嫌な顔で壁を叩いている。どんどん近付いてくる彼に脳内は警報を鳴らしている。咄嗟に離れようとすれば、そうはさせるかと言わんばかりに壁際まで追いつめられた。もう、逃げ場はない。不意に足を踏んできた彼のせいで、私のローファーはぐにゃりと潰れた。


「ふはっ、俺がお前のこと嫌いなわけねぇだろバァカ。…いい加減分かれよ」


分かんないよ、わたしには。花宮くんの気持ちも、どうして私にだけ暴力的なのかも。それに、愛おしそうに口付ける理由も。



このろくでもない世界で


彼はきっと歪んでしまった。素直に愛すことができなくなってしまったのだと、悟るように静かに目を閉じた。


140201
僕の知らない世界で様に提出。
花宮くんお誕生日おめでとう(遅すぎる)
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