あの跡部が、ついに童貞を卒業したらしい。

大半の女生徒は噂を垂れ流すのに必死だが、一部の女生徒は「跡部様の精子を手に入れたい」と毎日テニスコートでまるで彼を呪うかのように拝み、また別の女生徒は発狂し彼の写真を切り刻み「もう何も信じない!」とヒステリックに叫び、そしてある女生徒はそんな奇妙な光景をただ冷静に見守るのであった。

「まるで他人事だな、俺様の初めてを奪っておきながら」

張本人は皮肉っぽく私の脚を撫でながらそう言う。そうですね、と視線を交わらせることなく答えれば少しムッとした様子で抱き寄せられた。

「けどなんでお前はテニス部が嫌いなんだ?」

そう、跡部はやたらとそのことについて聞きたがる。本人曰くそこまで気にしてはいないらしいが、何度も聞いている時点で気にしている。何故でしょう〜といつものようにはぐらかすが更に彼の機嫌を損ねてしまったらしく無理矢理唇を奪われた。舌を絡め唾液を混ぜ合う行為をただひたすらと続けながら、わたしはあの日を思い出そうとした。




あの日。
あれは全国大会に向けテニス部が頑張っていたときだった。いつだっけ、確か秋か冬くらい?いつものようにテニスコートの周りには取り巻きがびっしりと詰め寄り、わたしもそのうちの一人に過ぎなかった。その時は跡部様と奉り黄色い声で応援し彼の行為一つでメロメロになる立派なメス猫だったのだ。
そんな時どこからかテニスボールが飛んできて、見事わたしの顔面にヒット。気絶でもしていたら楽だったんだけど、鼻血が出るだけで意識は朦朧どころかはっきりしてた。大丈夫?と友人に気遣われたが、周りのファンは気にすることもなく黄色い声を上げ続けていたのでほとんど誰も気付いていない。でもボールが確かに私の足元にあるんだから、ぶつけた張本人は見ていたのかもしれない。いつまでも鼻血を出し続けるのもみっともないので一人でこっそりと保健室に向かった。保健室の先生はどうやら留守らしく、勝手に使ってくださいと言わんばかりに鍵が開いていた。あれ、鼻血の手当って下を向くんだっけ?横になるんだっけ?上だっけ?冷やすものっている?とテンパりつつティッシュを鼻に詰めれば自然と血は止まった。
良かった〜と安堵してベットに横になればあら不思議!いつの間にか外は真っ暗。うそうそ、えっ今何時?と携帯を見れば時計はとっくに19時を過ぎていて友人から「先に帰るね」とメールが来ていただけだった。そこでふと気付いたが、ただ寝ていたにしては衣服がはだけ過ぎているような気がする。まあ気のせいか、と気にも留めずに出入り口の鏡を見て絶句した。く、首元に



あれからよく覚えていないけれど、それ以来テニス部の練習を見に行くのは辞めた。取り巻きが一人減ろうがどうせ彼らは気付かないだろうと思ったのもある。しかし目ざといテニス部の部長であり、我が氷帝の生徒会長様はわざわざ私のクラスにまで来て呼び出しをかけたのだ。それがつい先月のこと。あの日から数ヶ月も経っているのに呼び出されたこっちからしてみれば、大変いい迷惑である。そんな迷惑をかけておいて付き合っちゃう私も私なんだけど。


「おい、ぼーっとしてんじゃねーよ」


長い長い口づけの間、わたしはひたすら過去を思い出していた。なに考えてたんだよ、と先ほどよりもかなり不機嫌な私の彼氏様は言わねーと犯すぞと非常に物騒なことを口にする。ぶっきらぼうにテニス部の取り巻きを辞めた日、と呟けば「あぁ、お前が保健室で寝てた日か」と彼は笑った。・・・え?

「え、なんで知ってるの?」
「はっ、お前気づいてなかったのか?ちゃんと跡残しといただろ?」


うん?あのキスマークは跡部がつけたの?えっそれってつまり…


「ボールを当てたのも俺だ」



20131024
跡部様誕生日おめでとうございました
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