※大学生(箱学出身・元マネージャー)
なぜ日本人なのに外国語を学ばなければいけないのか。わたし日本から出る予定ないから外国語なんて勉強しないよ、と主張したって無駄なのは分かっているが、言わずにはいられなかった。
何語を取るか悩んでいるときに、丁度同じ学部の荒北を見付け、逃げないようにしっかりと捕まえる。めんどくさそうな顔をしながらも荒北は私の相手をしてくれた。
「あーらーきーたー。荒北は外国語なに取ったのー?」
「ギリシャ語だけどォ」
は???!ギリシャ語?!!!!とビックリマークとハテナが大量につくくらい驚いてみせたのに、荒北は澄んだ顔でイチゴオ・レ啜っていた。
「ちなみに金城は中国語ォ」
「わたし中国語得意だよ」
「じゃあ何か喋ってみてェ」
「ニーハオとシェイシェがあればオッケー」
「…それ俺でも分かるからァ」
大きく開いた口から歯茎が見えるほど憎たらしく笑って、荒北は私に「バーカ」と言った。それよりもギリシャ語をチョイスした理由を知りたい。なんで?と聞いても「別にィ、何となくだけどォ」としか言ってくれなかった。
結局わたしは荒北と同じギリシャ語ではなく中国語を選択した。漢字が使われてて、少しだけ日本語と似てるような気がするからだ。更に言えば金城が同じ中国語だし、分からなければ金城に聞けばいいや、と思ったのもある。というか金城に頼って単位を貰う(予定)、が本音だけど。
「そこは俺を頼れヨ」
「やだ!!!だって荒北、元ヤンだもん!!!」
「うっせェ!!黒歴史掘り返すんじゃねェ!!!」
いやぁ、だってあれはないわ。昔のことを言えば荒北は怒る。特に髪型について言おうものなら本当に噛み付かれる。ごめんごめん、と謝っても荒北の機嫌は直らなかった。
「もー。謝ってるじゃん」
「中国語で謝ってくれたら許すヨ」
「……」
「知らねーのかヨ。中国語でごめんはトゥイプチー。それくらい覚えとけ」
元ヤンの荒北の方が賢いなんて誰が想像しただろう。というか荒北が中国語に詳しいなんて予想外だ。詳しいなら中国語を取れば良かったのに。なんで知ってるの、と聞いても「ナイショ」と言われた。内緒にするほど重要なものでもないと思うけれど。
「だからよォ、中国語で分からないとこあれば俺に聞け」
「え、いいよ。金城に聞くから」
「ボケナス!金城に迷惑かけんじゃねェヨ!!!」
それにハコガクがバカだと思われるだろーが!と言われても、金城がそんなことを思うとは思えない。ははーん、さては荒北クン。寂しいんだな〜?とからかってみれば荒北はムッとした顔をした。
「ち、チゲーヨ。俺はお前なんて別にどーでもイイヨ!」
「ひっどい、わたしたち高校からの仲なのに。」
泣き真似をすれば荒北は慌てて謝ってきた。そんなもんで私の機嫌は直らない。それじゃあ代わりに、と提案してみた。
「荒北がギリシャ語取った本当の理由を教えて」
わたしは知っている。荒北がギリシャ語なんて取るようなキャラじゃないことを。どちらかと言えば韓国語を取りそうな顔だし。あえてギリシャ語を選択したのは、きっとそれなりの理由があるからなんだと思う、たぶん。
アー、とかダカラヨォ、とかよく分からない唸り声をあげながらも荒北は言ってくれた。
「お前が昔、外国に行くならギリシャって言ったからよォ。」
「…えっ?」
確かに、そんな話を高校のときにしたような気もする。東堂が、「巻ちゃんがイギリスに行くなら俺はスイスに行く!」とか言い出して。じゃあ新開も「俺は行くとしたらイタリアだな」なんて言うからその場のノリで「わたしはギリシャに行きたいー!」と言ったような。
「うん、きっかけは分かったけど…なんで?」
「分かれヨ、」
プイ、と背を向ける荒北の背中を黙って見つめる。え、いや分かんないし。なんなの、そこまで言われたら気になるじゃん!けれど「あーらーきーたー」とウザいくらい呼んでいるのに、ちっとも振り向いてくれない。時間を見れば、次の授業の教室に移動しないと遅刻しそうだった。確か次は、金城と同じ中国語だ。そろそろ行くね、と言って立ち上がれば荒北に腕を掴まれた。
「…サガポー」
「は?貞子?」
チゲーヨ!サガポーだボケナス!とだけ言って荒北は何処かに走って行った。なんだあいつ、変なものでも食べたのかなあ?と呑気に考えながらも、急ぎ足で教室に行けば既に教科書を開いて座っている金城がいた。
「わを!ギリギリセーフ!」
「また遅刻かと思った。」
「そう何度も遅刻しないよー。」
金城の隣に座り教科書を開く、パッと目に入ったのが「ウォーアイニー」という単語だった。中国語で、好きとかそーいう意味。うわあ、外国語で告白されたらキュンってときめきそう!
そのときふと、荒北が言っていた言葉が気になった。
「あ、そうだ。金城ー、サガポーって知ってる?」
「ああ、ギリシャ語で愛してるって意味だな」
………え?
140920
サガポーを貞子?って聞き間違えるやつをやりたかっただけ。