シクシクとジュクジュクは似ていると思う。というか濁点と「ュ」があるかないかの差だけで構成自体は余り変わらない。
…なーんて外人じゃあるまいし、その2つが違うってことは一目見て分かるんだけどね。


「おめさん、泣いてるのか?」


一人教室で泣いていれば、新開が来た。忘れ物を取りに教室に来たらしいが、バッドタイミングすぎる。わたしは、彼に泣き顔を見られてしまった。まさか誰かが来るなんて思いもしなかったので、遠慮なく泣いていたから、それはもう悲惨としか言いようがないだろう。泣くなら女子トイレにしておけばよかった、と後悔してももう遅い。シクシクなんて可愛いものではなく、嗚咽を我慢せずまるでオットセイのように泣いていた。それを新開に見られたのだ。今すぐ死にたい。


「べ、っつに゛。関係な、っい゛」
「あ、ティッシュ使うか?」


早く出てって、と言う前に新開は私の前に座りティッシュを差し出した。遠慮なくそのティッシュを受け取りズビーっと鼻をかむ。「帰っ、て゛よ゛」わたしの汚ない声は、新開の笑みを崩した。ティッシュを貰っといて帰れなんて、なかなか酷いと自分でも思ったが出来れば今すぐ出てってほしい。


「………寿一のことか?」
「寿一は、関係な゛い」


間が空いて、新開が気まずそうに聞いてきた。関係ないなんて言ったが、彼の言う通り寿一のことだ。

わたしは、ずっと寿一が好きだった。だった、なんて過去形にしないと余裕がないくらい今も寿一でいっぱいなのだが、その寿一に恋人ができた。それは隣のクラスの図書委員の、どちらかと言うと幼馴染みの私とは真逆な子で。普段本なんて読まないし、大学に行けるか際どいくらい頭も悪い。その子の趣味は読書と言うほどに本のムシらしいし、成績も常に学年上位だ。まあつまり、最初から私なんか眼中に無かったということで。


「おめさんがそんなあっさり諦めるなんて思えねーけどな」
「う゛、るさい゛」


傷を抉るなと新開に言おうとしたけれど、嗚咽で言えなかった。諦められたらどれほど楽か。幼馴染みでいるのも辛いのに。もうやだ、と言えば新開は優しく頭を撫でてくれた。「新開は、優しい゛ね」ジュクジュクになったハンカチから顔をあげると、今にも泣きそうな新開がいた。


「…俺だって辛いさ」


わたしは、この言葉の意味を知らない。


140919
きみにさよなら様。
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