セブイレの新発売のスイーツがバカみたいにウマいらしい。唯一食べたことのある丸井が「バカうまだぜぃ、あれ」と絶賛していた。それを聞いた幸村が「食べたいから誰か買って来てよ」と言い出した。あのワガママ王子様め、自分で買って来いよとか思ったら睨まれた、幸村怖い。
「じゃんけんで決めようぜぃ」
丸井の要らぬ一言で幸村様に新発売のスイーツを捧げるじゃんけん大会が始まった。負けた人が買いに行くという決まり付きである。あまりにも不条理なこのじゃんけん大会に、勿論幸村は参加しない。丸井、仁王、わたしの三人だけだ。確率は三分の一、今日の星座占いで一位の私が負けるわけがない。
「じゃあなまえ、頼んだよ」
負けたのは私だった。無惨にも一人負け。俺のもシクヨロと、上機嫌でウインクする丸井に殺意が沸いてきた。決めた、丸井の分は絶対買ってやらない。幸村と仁王と私の分だけ買ってやる。
「仕方ないのぉ、俺も行くぜよ」
めんどくさそうに椅子から立ち上がる仁王に感激した。あのめんどくさがりで有名な仁王が着いてきてくれるなんて!嬉しさのあまり抱き付けば、鬱陶しそうに剥がされた。ああ忘れてた、仁王は抱き付かれるのが苦手だったんだ。っていうかお金、お金はどうするの?
「部費で買えばいいじゃん」
あっさり告げる幸村だけど、幸村が部長で良かったのだろうか?他の部はなけなしの部費で色々とまかなっているのに。まあ結局部活の為のお金だからいっか、と思ってしまう私は幸村と同じなのだろう。
〜〜〜
学校から徒歩五分の位置にある近所のセブイレに入店早々、仁王は一目散にスイーツコーナーに歩き出した。そのまま新発売と書かれたプリンを手に取り「これであっちょる?」と私に聞いてきた。よくよく考えれば、新発売のスイーツとしか聞いていない。プリンかもしれないし、その隣に置いてあるティラミスかもしれない。はたまた、一つ下の段に置いてあるエクレアかもしれない。けれどめんどくさいので「それだと思うよ」と言っておいた。まあ合ってるだろう、たぶん。
「案外お前さんも適当なんじゃな」
可笑しそうに笑う仁王につられて私も笑った。だって私たちパシリじゃん。確かにそうじゃけど、適当すぎるぜよ。買ってあげるだけでも優しいから。自腹じゃのおて、部費で買っちょるじゃろ。まあね。
スイーツ片手に笑う私たちを、バイトのお兄さんがいかがわしい目で見ていたので、すぐにプリンを四つ買って店を出た。五百円で足らなかった分は、全部仁王が払ってくれた。半分出すよ、と言っても「奢りたい気分なんじゃ」と頑なに私からお金を受け取ろうとしなかった。案外仁王は、立海一の優男かもしれない。
「珍しいよね、仁王が自らパクりの付き添いなんて」
「そういう気分じゃったけぇ。」
「…ふうん」
歩くたびパカパカと鳴るローファーの音と、コンビニのビニールの袋が擦れる音を聞きながら、わたしたちは遠回りしながら、ゆっくり学校まで戻った。二人共、そういう気分だったのだ。
「ほんまはのー」
「うん」
「なまえがじゃんけん負けて嬉しかったナリ」
「ひっどー」
「こうして二人で過ごしたい気分じゃったぜよ」
「わたしも仁王と話したい気分だったよ」
そか、と照れたようにはにかむ仁王から、視線を反らすように俯いた。たぶん、今、わたしの顔は真っ赤な気がする。急に俯いた私に、仁王は気分が悪いんか?と心配そうに聞いてきた。ううん、平気。何でもないよ。と慌てて顔を上げれば、ぐしゃぐしゃになるまで仁王に髪を撫でられた。
「なっ、!」
「こういう気分じゃったけぇ」
嬉しそうな仁王を見て、まあいいや。なんて思ってしまう私は、きっと「気分」なんかじゃないだろう。さっきの笑った仁王が眩しかった、なんて…口が裂けても言えないよ。
20130223
実は両思いの二人。続き的な。