「すまん!巻ちゃんのところに行っていた!」
「はぁーーー?マジ信じられない。」


実は私の誕生日だった、だったという過去形なのは日付が変わっているから。そう、つい4分前は私の誕生日で今は何もないただの平日の金曜日だ。今目の前で謝っているこいつ、東堂尽八は私の彼氏で。ていうか今何時だと思ってるの。夜の12時なんだけど、12時。正直眠いから寝たいがこいつには色々と言いたい事がある。信じられないことに昨日は愛しの巻ちゃんのところに行っていたという。…巻島くんに負けたのか、わたし。普通さー彼女の誕生日忘れたりする?アホう堂、アホ八、アホ。行き着いた先はただのアホだった。


「巻ちゃんが風邪を引いたというのでな、つい行ってしまった」


バツが悪そうにしてるけど、巻島君が風邪引いたってだけで総北まで行くの?ある意味スゴイよ、そりゃあ荒北が呆れるのも分かるわ。真波でさえ「あれ、今日東堂さんいないんですか〜?じゃあ俺が代わりに先輩の誕生日祝ってあげますね〜」って蝉の抜け殻で祝ってくれたのに。勿論気持ちだけ受け取って蝉の抜け殻は返したけれど。せめてもっとマシなものをくれ。


「俺が悪いから気が済むまで叩いてくれてもいいぞ!」
「なんで上から目線なんだよ。その美形が歪むまで殴ってやろうか」


それはならん!それだけは勘弁してくれ!と喚く尽八に「嘘だよ」と言えば、髪を掻き上げ「知っている!」と嬉しそうに言うもんだから本気で殴りたくなった。あれ、私なんでこんなアホと付き合ってるんだろ。


「ていうかもう明日でもいい?寝たい。」
「むはは、そうだな!ではまた明日迎えに来るぞ!」


振り向きもせず自転車に跨りさっさと帰る尽八に呆れて何も言えなかった。なにお前、一体何しに夜中にここまで来たわけ?訳分かんない。



「ってことがあったから今尽八と気まずいんだよ」
「おめさんも大変だな」


クラスメイトかつ部活仲間の新開に相談すれば可哀想に、とパワーバーを差し出された。ちなみに今朝は尽八が迎えに来る前に先に学校に来てやった。本来マネージャーである私も朝練に参加するのだが、今はテスト期間なので部活はない。テストは嫌だが、テスト期間に惚れそうになった。こんな状態で部活なんてあってみろ、どんな顔して彼と会えばいいのだ。

新開と話していれば寿一が来た。新開に貸していたノートを返してもらいに来たらしい。「サンキュー寿一、助かった」絶対丸写ししたに違いないけど、それで赤点だったら寿一は怒るだろうなぁ。なんて呑気に二人を見ていれば、突然寿一がわたしを見た。


「そう言えば、東堂が探していたぞ。」
「げっ?!」
「ああ、大丈夫だ。俺がここにいることを伝えておいた。」


椅子から立ち上がり、脱兎のごとく女子トイレに逃げ込んだ。寿一は良い奴だから、わたしと尽八を仲直りさせようとしているに決まっている。別に喧嘩じゃないんだけど。ちょっと気まずいだけなんだけど。兎に角、本鈴が鳴る直前までここにいよう。隠れるように鍵を閉めてから数秒後、「どこだっ!?どこにいる!?」とうるさい声が聞こえてきた。大丈夫大丈夫、私は空気です。


「いるのは知っているぞ!そろそろ出てきたらどうだ?」


女子トイレ前で叫ぶ尽八は傍から見れば変人だろう。まあ実際変な人なので否定はできないか。携帯で時間を見れば本鈴が鳴るまであと3分もあった。カップラーメン作れるじゃん。


「なまえーーー!!!」


ありったけの声で叫ぶ尽八にこっちが恥ずかしくなってきた。あんのアホう堂、なにやってんの。こんな状況だと余計出にくいわ。


「好きだーーー!!!」
「っ、ああもう煩い!」


アホ八の恥ずかし過ぎる行動に耐えれなくなって鍵を開ければ目の前に尽八が居た。それはそれはもう、満面の笑みで。「やっと出て来たな」…いやいや。ここ、女子トイレなんですけど。


「知ってるか?今日は付き合って一年記念日だ!」


手渡されたペアリングと尽八のアホみたいな笑顔を見れば、誕生日を忘れて巻島くんに会いに行っていたことも、夜中に急に訪問してきたことも、なんだか全部どうでもよくなってきた。


「…仕方ないから許してあげる。」
「むはは、サプライズ成功だな!巻ちゃんに相談した甲斐があった!」
「分かったからとりあえずトイレから出て!ていうか寿一も新開も覗くな!」


つまるところ、結局はこのアホが大好きということで。



140906
私の中で東堂はアホキャラ。/森とおやすみ様に提出
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