ねえなんでどうして?の続き。




先輩が新開さんと良くないお友達なのは、薄々気付いていた。けれどそれを口にしてしまえば、きっと先輩は俺に罪悪感を感じてしまって、別れを告げると思ったから、だから俺は見て見ぬふりをしていた。


先輩と学校ではあまり恋人のようなことはしない。ましてや、キスなんて絶対。それはお互い噂になるのが嫌だったし、俺の変なファンに嫌がらせされても困るから。だから先輩との仲は委員長にすら言わなかった。

付き合い始めて1ヶ月が経った。相変わらず、先輩は定期的に新開さんと会っている。だからわざと新開さんが自主練を終え、タオルを取りに部室に戻ってくるタイミングを選んだ。


「ねえ先輩、キスしませんか?」
「…山岳さぁ、ここ学校だよ?」
「誰も見てませんよ。先輩からのキスがあれば、今からの練習も頑張れるのにな〜〜」


今回だけだからね、と先輩は恥ずかしそうに唇を合わせてくれた。先輩が俺に甘いのを分かってて、断れないのを知ってて言ってみた。触れるだけのはずが、傍観者がいるかもしれないと思えばもう抑えられなかった。舌を入れて先輩の口の中をたっぷりと堪能する。怒られるかも、と少しだけ思ったけれど先輩は嫌がらなかった。


「センパイ、好き。」
「ん、私も山岳が好きだよ。」
「ほんと?俺がイチバン?」
「なにそれ、二番目なんていないよ。」


先輩のウソつき。ほんとはいるくせに。俺が知らないと思って、定期的に会ってるくせに。新開さんと先輩がデキてるって噂があるの、知らないのは先輩くらいだよ。

ねえ、二番目の新開さん。ちゃんと見てた?



次の日新開さんに呼び出された。俺は先輩と付き合っている、正式な彼氏は俺なのだから大丈夫。と、よく分からない自信を持ち合わせて呼び出しに応じれば、思ったよりも新開さんは普通だった。

「新開さんが、わざわざ俺を呼び出すなんて珍しいですね〜」
「ちょいとおめさんに聞きたいことがあってな」
「なんですか〜?」


飄々と聞いてみれば、新開さんは間を置いて「あいつと、付き合ってるのか?」と俺に聞いた。ああ、やっぱり見てたんだ。昨日の先輩とのキスを。


「なまえ先輩とですか?バレちゃいました?隠してたつもりなんですけどね〜」


ウソ。ほんとは新開さんに見せ付けてたんだよ。だって先輩は俺のだから、新開さんのじゃないから。だからああすれば、新開さんは諦めてくれると思ったから。


「ヒュウ!やるねぇ。なあ真波、俺となまえのウワサ知ってるかい?」
「知ってますよ〜、でもあくまで噂じゃないんですか?」


だって付き合ってるのは俺なのだから。口には出さないけど新開さんは勘が鋭いから察したようだった。ああ、そうだな。と笑う新開さんにホッとした。新開さんがイイ人で良かった、と思ったときだった。


「噂はちょっと間違ってるよな、ただ俺とあいつはデキてるぜ?」


そのデキてる、が下品な意味でデキてるのだと分からないほど俺は子供じゃないし、勿論先輩とそういうこともしている。先輩のあの中に新開さんも入れているなら、俺は新開さんと穴兄弟なのかぁ〜と、よく分からない考えに行き着いた。いや、よく分からないのは俺じゃなくて目の前のこの人か。


「それでも、彼氏は俺ですよ。」


最後は彼氏という単語を強調して、俺は先に教室に戻った。この人と話せば話すほど、俺の中のどす黒い感情が沸々と湧き出て先輩への愛が潰れていっちゃう。嫉妬なんて可愛いものじゃない。なんて言えばいいのか分からないけれど、きっと醜く歪んでいて、それは曇天とカラスの黒を混ぜたような、濁った色で出来ている。

そのうち、変な感情が怖くなって俺は先輩を無意識のうちに避け始めた。新開さんとも、極力関わらないように頑張った。先輩が新開さんと一緒にいるところを見たら、可笑しくなりそうだから。


それから暫くしたら、段々俺は落ち着いてきた。変な感情も最近は滅多に出てこない。そろそろ先輩が恋しいな、と思い久しぶりにデートのお誘いをしてみたら、あっさりオッケーがもらえた。先輩と向き合うのはどのくらい久々だろうか。部屋に入ったとき、微かに新開さんの香水の匂いがした。その瞬間、あのどす黒いモノが溢れ出てきて、俺は思わず言うつもりの無かった言葉を口にしていた。


「ねえ、センパイ。なんで新開さんとの関係が終わってないの?」


泣き出す先輩を見てどうしていいか分からなくなった。泣きたいのは俺の方だよ。


140905
ここまで来たら新開目線も書きたい。
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