※影山くんがアホの子。
バレーボールほど憂鬱になる球技はない、わたしはバレーが大が付くほど嫌いだ。体育で選択制ならば、絶対にバレーだけは選ばないと心に決めていたのに。烏野高校の体育は、学年問わず前期はバレーと決まっていた。もうこの時点でテンションガタ落ちなのだが、追い打ちをかけるかのように影山くんと同じチームになってしまった。
正直に言おう、わたしは影山くんがバレーよりも苦手だ。
「影山くんってカッコいいよね〜」
どこからともなく聞こえてくる熱を帯びた嬌声。あーそうだねカッコいいね、と心の中であしらって私はコートに立った。セッターは勿論彼、影山くんである。その凛とした立ち姿だけで多くの女生徒は目をハートにして彼に熱い視線を送っていた。
「なんであだ名が王様なんだろうね」
誰が言ったのか分からないくらい小さな会話のワンフレーズだったが、影山くんは一瞬固まった。彼は王様だと呼ばれることが嫌らしい、と噂では聞いていた。なんでも、中学時代のトラウマなんだとか。まあ私には関係のない話だけど。ぐるりと周囲を見渡す影山くんに、チームメイトの男子は不思議そうな顔で「どうした?」と彼に聞いていた。ああ、わたしと影山くん以外の人にはさっきの声が聞こえていなかったのか。と理解するのに少し時間が掛かった。
「いや、なんでもない」
そして彼は、何事もなかったかのようにサーブを打った。
***
試合はほとんど影山くんのお陰で圧勝した。勝ったチームは次の試合まで休憩出来るので、わたしは水を飲もうと水道まで走ったが見事に先約がいたようだ。後ろ姿だけで誰かは分からなかったが、男子ということは理解できた。早く水が飲みたいのに…と熱視線を送ったからかは分からないが、目の前の男子が何気なく振り向いた。
ゲッ、影山くんじゃん。
「…すんげー嫌そうな顔だな」
キュッと水道の蛇口を捻りながら彼は不服そうな顔でそう呟いた。残念ながら否定はできないので、「元からこんな顔です」と言っておいた。
「お前さぁ、…俺の事嫌いだろ」
「へっ?! なな、なんで?!」
なんで、なんて言えば肯定しているようなものだが、バレてるという事実に私の頭は真っ白だった。「分かりやすすぎ」と日向くんに向ける馬鹿にしたような笑みで私を見る影山くんは、王様というあだ名がしっくりくるような、そんな顔をしていた。
「さっきの王様って言葉お前も聞こえてただろ」
「…う、うん」
「俺、王様じゃなくてお前の王子様になりたいんだけど」
思わず影山くんに「は?」と真顔で返してしまった。なんだこいつ、なんなんだ。馬鹿なの?(そう言えば蛍くんが影山くんは馬鹿だと言っていた気がするけど、まさかここまでとは…。)さっきまで好きとか嫌いとかそういう類いの話をしてたのに、突然すぎるだろ。というか脈絡がなさすぎて私がついていけない。
「まあお前がどう思おうと勝手だけど、俺は好きだから」
それだけ言えば影山くんは私から顔を逸らして体育館に戻って行った。顔は分からなかったけど、あの…耳がものすごく真っ赤でした。そしてたぶん、私も彼に劣らないくらい真っ赤だと思う。
とにかく今は、この乾いた喉を潤したい。
140826
書いた本人が「は?」でした。すみませんでした。