※月島くんと同じクラスでものすごい捏造


彼は何に対してもとても冷めた人だった。特に他人とは適度な距離がなければいけない人で、彼と喋るのはごく一部の限られた人だけだ。そんな彼にわたしは興味があった。まるで賢い一匹狼のようで、少しだけ憧れも抱いていた。意を決して話しかけたのは、入学式から丁度一週間が経った頃。トントンと肩を叩けば、めんどくさそうに彼は振り向いた。


「月島…ほたるくん?」
「蛍って書いてけいって読むの。なんなの君、喧嘩売りに来たの?」
「君じゃなくてなまえ!」
「あ、そう。知らないし興味ない」


それだけ言えば月島くんはさっさと歩き出してしまった。あ、待ってと声を掛けてもそ知らぬ顔でどんどん前に進んでいく。ちょっと待ってよ、と袖を引っ張った時ようやく立ち止まってくれた。


「さっきから何なの?僕に用でもあるわけ?」
「えっと、その、用ってほどでもないんだけどさ」
「はぁ?用がないならいちいち呼び止めないでくれる?」
「わたしと 友達になってください!」


廊下の真ん中で告白ならぬ友達宣言。ああ、どうしよう。月島くんが直視できない。オーラでわかるけど、彼は今ものすごく不機嫌だ。しばらく沈黙のあと、それだけ?と月島くんは目を細めて私を見た。


「あ、うん。それだけ…です」
「ふうん」


そして何事もなかったかのように月島くんは歩き出した。廊下に残されたわたしは追いかける勇気などなく、ただ呆然と彼の後ろ姿を見ていた。え、っと。これで月島くんと友達になれたのだろうか?一方的すぎたのかなぁと反省しながらわたしは自分の教室に戻った。


放課後のHRで、先生が全員に部活動の入部届を配った。高校時代は一度しかないのですよ。青春を味わいなさい、と付け加えて。部活かぁ。きっと月島くんは帰宅部だろうなぁと、窓際一番後ろに座っている彼を見れば割と真剣に入部届を見ていた。もしかして何か部活に入るのだろうか?できれば月島くんと同じ部活にわたしも入りたい。でも運動部なら嫌だな。


「バレー部だけど」

早速月島くんに「何か部活に入るの?」と尋ねれば淡々とした口調でそう言われた。どうやら廊下での出来事は気にしていないようでホッとした。確かに彼は身長が高いから、バレーに向いてると思う。「月島くんは、バレーがすきなの?」と先ほど同じように問いかけたのに、彼はすごく怒ったような顔をした。


「別に。ていうかさ、好きじゃないとダメなわけ?」
「そんなこと、ないけど…」


あっそ。と早々に会話を切り上げ席を立つ彼に思わずまくし立てるように言葉を繋いだ。

「きっと月島くんもバレーが好きになるよ!」
「ならないよ」
「そんなこと分からないじゃん!」
「…しつこいなぁ」

イライラすんだよ、無駄に熱い奴って。
月島くんは誰に言うでもなく、まるで独り言のようにそう言った。うざいのかな、わたし。もしかして月島くんに嫌われてるのかな。自虐気味に「ごめんね」と言ったけれど、彼は振り返ることなく教室を出て行った。聞こえていなかったのだろうか、とも思ったがそんな訳ない。あんなにも至近距離で話していたのだから。



それから一ヶ月が経った。結局あの日から月島くんとは挨拶以外言葉を交わしていない。月島くんはバレー部に入ったが、わたしはなにも部活に入らず帰宅部になった。ゴールデンウィーク明けの学校はなんだか杞憂だ。いつもなら真っ直ぐ教室に向かって歩くが、なんとなく体育館の前を通った。中を覗けば、バレー部が朝練をしていた。丁度月島くんがサーブを打つところで、わたしは食い入るように見ていた。めんどくさそうだけど、どこか凛とした雰囲気でサーブを打つ月島くんがとても綺麗だと思った。


「月島くん!」

朝練が終わって、体育館から出てきた彼に思わず声をかけてしまった。足を止めて汗を拭いながら私を見る月島くんは「…なに?ていうか見てたの?」とばつが悪そうな顔をしていた。しかし私はそれどころではなく、立ち止まってくれたことに少なからず動揺した。だってあの月島くんが、立ち止まって話をしてくれるなんて。


「あ、うん。たまたまだけど…」
「…。用があるから呼んだんだよね?」


相変わらず口調は優しくないが、出会った当初よりは丸くなってきてる…と思う。上手くは言えないけど、なんとなく。

「その、バレー楽しい?」
「まあ、楽しいんじゃない?」
「じゃあ、好き?」
「は?!な、なに言ってんだよ!」

今まで見たことないくらい動揺している月島くんに、わたしは驚いた。冷静で、クールだと思っていた彼が熱くなるなんて。「いきなり何てこと聞くんだよ」とあからさまに不機嫌になる彼だけど、本心は違うと思う。


「だって、バレーしてる時の月島くんスゴく楽しそうだったから。気付いてないかもしれないけどね、コートに立ってるとき月島くん笑ってるよ?」

だから…と言いかければ彼は「なんだ、そっちか」と笑った。うん?そっち?


「どっちだと思ったの?」
「別に?…なまえには関係ない。」

じゃ、着替えてくるから。と私の頭を二回ポンポンと叩いて部室の方に行く彼に、心臓がドクリと脈打った。急に名前を呼ぶなんて、触れてくれるなんて…月島くん、それは反則だよ。



これが僕なりの答え




(あれ、なんか月島顔赤くね?)
(熱でもあんのかー?)
(……別に。)



140728
月島くんと両思いになるちょっと前のお話。
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