1 嫉妬する丸井


俺の彼女のなまえはむちゃくちゃ可愛い。贔屓目とかじゃなくて、一般論で充分可愛い部類に入る。つまり、俺っていう彼氏がいるのにも関わらずモテる。バレンタインでは紙袋大盛にした逆チョコをもらってた。


「えへへ、貰っちゃった」


一緒に食べよ?なんて言いながら紙袋の中から適当に取り出したチョコ(すごく高そう)を渡された時はどうすればいいのか分からなかった。


「なまえだけで食べたらいいだろぃ」
「私こんなにいらないもん」


ブンちゃんお菓子好きでしょ、そういいながら全然知らない男共から貰ったチョコを俺に渡すなまえに眩暈がした。


「いらねーなら、テニス部の奴らにやればいいだろぃ」


渡されたチョコを無遠慮に押し返せば、なまえはチョコをまた包装して紙袋に戻した。


「ブンちゃん、機嫌悪い?」
「………」
「私、部室に行ってくるね」


気まずくなったのか紙袋を持って走り出すなまえを追い掛けることなんて出来なかった。窓から後ろ姿だけ目で追ってれば途中でジャッカルと談笑しているのが見えた。何だよアイツ、誰にでもへらへらしやがって。イライラして舐めていた飴を思いっきり噛んだ。


「丸井、妬いてるの?」


ふと横を見れば幸村くんがいて、何となく気まずくなって目を反らそうとしたら有無を言わさずネクタイを引っ張られた。

「首!幸村くん首!締まってる!」

嗚呼、ごめんごめんと対して気にしてなさそうにする幸村くんは、やっぱスッゲー鬼畜だ。


「ペアに嫉妬って、…丸井は可愛いね」
「うるせー」


黙ってろぃ、と喉元まで出かかったが飴と一緒に呑み込んだ。


「あんまり困らせたら、愛想尽かされちゃうんじゃない?」


まぁ頑張って、と俺の肩を二回叩いて何事も無かったかのように幸村くんは去っていく。もう一度窓を見たら、まだなまえとジャッカルは話し込んでいる。胸の辺りがモヤモヤして、気付いたらジャッカル達の元に歩いて行ってた。なまえの腕を掴んだ瞬間、驚いた様子で「ブンちゃん、どうしたの?」とか言われたけど無視した。ちょっと苦笑いしてるジャッカルにはお見通し、みたいで。


「お前は俺の彼女だろぃ?」


他の男によそ見してんじゃねーよ、と見せつけるようにキスをした。


(この俺がジャッカルに嫉妬なんて、絶対認めねぇ)






2 カゲロウデイズで仁王


夏休みじゃというのに、珍しく部活が休みじゃった。幼なじみであり、密かに好意を寄せているなまえに「部活がないなら遊ばない?」と誘われたのは昨日のことだ。二つ返事でいつもの公園で待ち合わせた。公園に行くまでに図書館に行くという柳生に出会って「なまえさんとデートですか」なんて冷やかされた。その後にお菓子を作る為に材料を買いに行くというブンちゃんとも出会った。待ち合わせの公園に着けば、既になまえが猫を撫でながらブランコに座っていた。


「仁王遅いよ、」
「途中で柳生とブンちゃんに会ってのぉ」
「…へぇ、珍しい」
「みんな暇なんじゃ」


人のこと言えないじゃん、なんて笑うなまえとすることもなくただダベっていた。しばらく話し込んでいたら、急になまえが抱えていた猫が暴れて道に向かって走って行った。「あっ、」と急いで逃げた猫を追い掛けたなまえを止めようとした瞬間、物凄い衝撃音が道路から聞こえてきた。


「なまえ、?」


嘘じゃ、なんて漏れだした言葉に現実味は無かった。道路を見ればなまえの血溜まりとむせ返る様な血の匂い、ピクリとも動かないなまえが横たわっていた。なまえを触っても、何とも感じない。


「嘘じゃ嘘じゃ嘘じゃ。なまえ、起きんしゃい。ほれ、全国制覇したら二人で遊園地に行くって約束したじゃろ…?」


なまえ、と何度呼び掛けても何度体を揺すっても無反応なのがまた恨めしい。俺を騙すなんて百年早いぜよ、と先日喋った会話を思い出した。そうだ、これは手のこんだなまえの悪戯なのだ。心は興奮しているのに、頭はやけに冷静だった。


野次馬が群がる中、道路の向こう側にもう一人の俺がいた気がした。

「プリッ」







悪夢、本当にその通りだと思った。


「嫌な夢ぜよ。」


目を覚ませばいつもと変わらない風景の自分のベッド、携帯を見れば「じゃあ13時にいつもの公園で」となまえからメールが来ていた。しかしどうにもあの夢は現実味に溢れている。予知夢、不意にそんな言葉が頭を過った。嫌な予感を感じながらも、公園に行こうとしたら途中で図書館に行く途中だという柳生に出会った。更に歩けば「お菓子の材料買いに行くんだぜぃ」と言うブンちゃんとも出会った。あまりにも夢と似過ぎている。「仁王遅いよ、」と猫を抱えながらブランコに座るなまえも、台詞も全て同じで寒気がした。


「どうしたの?」
「夢と同じじゃ」
「夢?」


帰るぜよ、となまえの腕を引っ張り公園から早歩きに出た。


「仁王、変だよ!」
「…今日は公園に居てはいかん。」


急いで路地を抜け大通りまで出た瞬間、周りにいた人間は皆上を見ていた。危ない、そんな声が何処からともなく聞こえれば一歩後ろに歩いていたなまえの方から鉄の落ちる音と悲鳴が聞こえて来た。落下してきた鉄柱がなまえを突き刺していた、まるでなまえだけを狙ったかのように。


「なまえっ!」


急いでなまえに駆け寄ればかろうじて息はあるものの、助かる見込みは0に等しかった。


「に、お…」
「喋ったらいかんぜよ!今助けるきに、だから」
「よか、った」


笑いながらうなだれるなまえの後ろにはもう一人の俺がいた。わざとらしく髪を弄りながらニヤニヤと笑って俺の前で立ち止まった。


「これは夢じゃないぜよ」
「詐欺はコートでしか通用しないき」
「そろそろ気付いてるんじゃろ?」


何が、と出かかった言葉は周りの騒音で掻き消された。

「この悪夢は終わらんぜよ」

あいつの言葉が心の何処かで引っ掛かった。









目覚めたらまた同じ夢で、いつも結果は同じだった。何回か繰り返すうちに段々と頭が冴えてきた気がする。詐欺師なんて、所詮コート上だけだ。もうとっくに気付いてる自分がいたのに、それが出来なかったのは臆病じゃったから。


「…こんな詐欺を終わらせるのなんて、全国制覇より簡単じゃき」


通り掛かったトラックが視界の隅に見えた瞬間、なまえの手を引っ張って自ら道路に飛び込んだ。


「、仁王!?」


痛いとか、そんな感情よりもなまえの瞳が目に焼き付いた。なまえの後ろに見えたもう一人の自分は酷く驚いた顔をしていた。


「ざまあみんしゃい、」


この瞬間今まで縛られていた何かから解放された気がした。










またいつもの夢を見た。今日もあれが繰り返されるのかと思えば、凄く憂鬱で。好きな人が目の前で死ぬのはスゴく辛くて、毎回助けようとするけどいつも自分に邪魔される。

「仁王、」

今日こそ私が仁王を助けるんだ。






3 残念な3TOP(晴矢・ヒロト・風介)


「なまえちゃん、香水変えた?」
「よく気付いたね、ヒロト」
「そりゃ毎日なまえちゃんの匂いを嗅いでるからね。」
「え、なに変態…。」
「やだなぁ。そんな目で見ないでよ。なまえちゃん専属のストーカーと呼んで欲しいな。」
「気持ち悪いぞ、ヒロト。」
「ところでなまえちゃん、パンツ頂戴。」
「は?」
「直球過ぎるぞヒロト。なまえ、私に下着を譲れ。」
「なにその上から目線。つーか、ヒロトと大して変わってないし。」
「ではどう頼めばいいのだ?」
「頼む以前の問題なんですけど?」
「えっ?」
「え?」
「は?」
「…くれないの?」
「なんであげる前提!?」
「お前らいい加減にしろよ。」
「晴矢…」
「なまえが困ってるじゃねーか。」
「流石常識人。」
「お前こそなまえの下着盗んでオナ」
「は!?おい風介それは言わない約束だろ!?ちゃんと口封じにお前にも渡したじゃねーか!」
「なにを?」
「なにってなまえのパ…」
「晴矢くーん?私の下着何枚盗んだのかなー?その下着でナニしてたのかなー?」
「………。」
「どうりで最近下着減ってると思ったわ。」
「………。」
「自爆したね、晴矢。」
「フッ。貴様などなまえの下着に触れる価値すらないわ。」
「風介とヒロトも同レベなんですけど!?」
「少なくとも真正面から頼んでる俺の方がマシかな。」
「マシじゃねーよ。」
「あとは私とヒロトだけだな。」
「風介は手強いからね。」
「ヒロト、ここは公平に分け合わないか?」
「おいちょっと待て」
「そうだね。風介とは争いたくないからね。」
「君たちはなにを分けようとしてるのかな?」
「何って…なまえの下着だけど?」
「いや、あげないからね。何回も言うけど渡さないから。」
「俺、パンツがもらえるなら何でもするよ。」
「私もだ。」
「………俺、も。」


君ら、プライドないの?


「とりあえず晴矢、土下座してなまえに謝れ。」
「は!?」
「私のポイントを稼ぐ為だ。」
「風介露骨だね…」
「なまえちゃん一生のお願いだからパンツ頂戴。」
「………。」
「なまえちゃんのパンツがないと落ち着かないんだ。」
「………。」
「今後の試合にも影響するかもしれないだろう?」
「…必死だなヒロト。」






4 豪炎寺の彼女


「どっ、どどどうしよ鬼道。私どうしたら全然分かんないくらいどうしたらいいんだろう??!」
「…とりあえず落ち着けなまえ」
「う、うん分かった落ち着く。」
「………要点だけ言え。」
「あのね、好きな人ができた。」
「は!?」
「でもね私遠距離だけど彼氏(豪炎寺)がいるじゃん?だけど1年も会ってないしイタリアにも来てくれないし」
「そんなことよりお前!好きな人は誰だ!?」
「日本のサッカー協会のイシドさん。」
「………。」
「あの赤スーツ格好良いよね!メッシュも最高!」
「………。」
「どうしよう鬼道。私本気でイシドさんのこと好きかも…」
「………なまえ、」
「なに?」
「来週俺と一緒に日本に行くか?」
「えっ!?いいの鬼道?」
「あぁ。」
「やったー!イシドさんに会える!あ、でも豪炎寺にも連絡しないと」
「その必要はない。」
「あ、そっか。浮気ばれちゃうもんね。」
「………。」
「イシドさん楽しみだなー!私もピアス開けよっかな!」
「…なまえ」
「メッシュ入れちゃおっかな!"イシドさんに憧れてお揃いにしました!"なんて、きゃー!」
「………。」






「初めましてイシドさん!」
「私がイシドシュ…なまえ!?」
「!?ご、ごごごゴウエンジさんじゃないですか…」
「おい鬼道、なんでなまえがここにいる。」
「浮気しに来たそうだ。」
「わー!鬼道シーッ!シャラーップ!それは言わない約束でしょ!」
「………。」
「でも結局私の運命の人って豪炎寺なんだね!」
「………(複雑)」
「ん?神妙な顔してどうしたの?」
「………いや。」






5 一枚上手の丸井


ジャッカルと同棲し始めてもうすぐ2年、付き合ってすぐに私たちは同棲した。結婚前提に、といったわけでは無かったけれどお互い結婚は視野に入れていた。あくまでも選択肢の一つとして、だ。そんな彼の行動に違和感を感じたのは1ヶ月ほど前。その頃から段々帰りが遅くなった。酷い時には朝帰りである。浮気だ、と直感的に思った。女の勘はよく当たる、というのは案外正しいのかもしれない。ジャッカルの上着のポケットにピアスが片方入っていた。勿論ジャッカルはピアスなんか空けていないし、ポケットに入っているなんて普通じゃ考えられない。これは浮気相手からの宣戦布告、なのだろう。


「馬鹿みたい、」


そう思ってそのピアスの代わりに私のピアスを入れといた。気付くのはジャッカルか、それとも浮気相手か。相手からの反応を楽しみにしている自分がいる。これが彼女の余裕というものだろうか?


「ねぇ、どう思う?ブン太、」


知るかよぃ、なんて言いながらガムを噛むブン太を横目に見ながら布団を被った。

「結局、同じなんじゃねーの?」

お前とジャッカルはさ、と至極楽しそうに笑うブン太にキスをすればそのまま愛し合った。ブン太が噛んだ後のガムを、私の上着に入れているなんて知らずに。





6 失恋する仁王


女の子なんて、みんな同じじゃと思ってた。別に今まで嫌いな子と付き合っていたわけでも無かったけど、キスでドキドキしたり相手の行動で一喜一憂することなんて一度も無かった。「来るもの拒まず、去るもの追わず」そんな感じで過ごしていた俺にも一人だけ気になる子がいた。


「プピーナ」
「仁王くんおはよう」


その子、なまえは今まで付き合っていた女の子たちとは違っておとなしい、というか地味な子だ。3年間クラスが一緒だったのにも関わらず、3年目でなまえの存在に気付いたくらいだ。3年になって毎日なまえを見ていたら柳生と仲がいいことに気付いた。前に一度、柳生になまえのことを聞けば「読者仲間ですよ」と言われた。それから何度か柳生を観察すれば、毎週金曜日の昼休みに図書室で会っていることを知った。しばらくして、柳生が生徒会で昼休みに集まることを知った俺は柳生に変装して図書室に行ってみた。


「なまえさん、」
「あれ、柳生くん生徒会は…?」
「先ほど終わりました。」


意外と早く終わるんだね、なんて笑う彼女は全く疑う様子を見せなかった。


「今日はなにを読んでいるのですか?」
「テニスの本!先週柳生くんがオススメしてくれたやつ!」


ほら、と見せる本には<初心者でも分かるテニスのルール>と書かれていた。


「熱心ですね」


なまえに笑いかければえへへ、と照れくさそうにしていた。


「全国大会、見に行こうかなーって…」


そんなこと、初耳じゃった。なまえがテニスの本を読み出したのも、全国大会に見に来てくれるのかと思えば胸が熱くなった。


「…じゃあもっと頑張らないといけませんね」
「勿論、柳生くんと仁王くんの応援もするよ!」


なまえは俺と柳生がペアということを知っているみたいだった。そろそろ教室に戻りますね、となまえに伝えれば気恥ずかしそうにあ…と引き止められた。


「その…ブン太くん、の試合は何番目なの?」


本人に聞いても教えてくれなくて、と笑う彼女を見て全身がカッと熱くなった。何も答え無いので不審に思ったのか「柳生くん?」と顔を覗き込まれた。

「すみません、ボーッとしていました。丸井くんの試合は最初の方ですよ、」

それでは、と一度も後ろを振り向かず図書室を出れば廊下に柳生が立っていた。

「…なまえさんは丸井くんと付き合ってますよ。」

柳生は知っていたのだろうか、眼鏡を上げ直す仕草を見てため息が出た。


「立ち聞きなんてするもんじゃないぜよ」
「変装もなかなかの悪趣味だと思いますがね」


幸い、廊下には誰もいなかったが柳生が二人もいるのは変だと思いヅラを取った。


「丸井は何時から付き合ってたんじゃ、」
「もうすぐ1年ですよ」
「…全く知らんかったぜよ」
「私も一ヶ月前に知りました。」


あの二人は秘密を作るのが上手いみたいですね、と呟く柳生の声は聞こえないフリをした。

「次の時間はサボるナリ」

柳生の制止する声も聞かず真っ直ぐ屋上に向かって歩いた。屋上に着けば、丁度五限目の始まるチャイムが鳴ったところだった。このまま知らない方が幸せじゃった。変装に使っていた眼鏡を外したはずなのに、視界は潤んだままだった。

「雨が降ったら言い訳出来たんじゃけどなぁ…」

目から落ちる雫は晴天の空とはあまりにも不釣り合いで、きっとこれが失恋というものだと思った。


(それを恋と呼ぶには似合わなさすぎて、愛と呼ぶには重過ぎた。)
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