※49話ネタ、短い。
片腕を失った彼を見て、率直に不便そうだと思った。
「思ったことは、それだけかい?」
「…生きててくれて、良かったです。わたし、団長が死んでしまったらどうしようかと」
はは、私が死ぬわけないだろう。とぎこちなく頭を撫でる団長を見て涙が出そうになった。いつもなら右手で撫でてくれるのに、これから団長が私に触れれるのは、その残った左手だけなんだ。
「…団長。何かと不便じゃないですか?」
「いずれ時間が経てば慣れるさ。それに大事な指輪はきちんとはめていられる。」
まるで私を安心させるかのように笑う団長だけど、わたしは知っている。団長は誰にも弱さを見せない人だ。どれだけ辛くても、悲しくても、人前では泣かない。いや、泣いてはいけない。私情を挟めば、団長なんて務まらないのだから。
「それでも、たまには私を頼ってください。私は貴方の妻でしょう、エルヴィン?」
本当は勤務中にエルヴィンと呼んではいけないけれど、呼ばずにはいられなかった。今日だけは、調査兵団の兵士ではなく妻として彼を支えてあげたい。そんな想いで名を呼べば、エルヴィンは「…すまない」と申し訳なさそうに眉を下げて私を見た。
「なまえには叶わないな」
「そんなこと、」
「…本当はなまえに別れを告げられないかと、会うまでずっと不安だったんだ。」
いつも兵士たちの前で見せるのとは少し違う表情で、彼は私に早口でそう告げた。おかしな人だ。
「そんなことで、別れるわけないでしょう。」
わたしは、調査兵団に心臓を捧げているのです。エルヴィン、私は"団長"の手足になる覚悟はとっくにできているのよ。いいえ、それ以前に貴方の妻なのだから
「命ある限り、どこまでも着いていきます。」
右手を左胸に添え、敬礼のポーズを取るわたしに彼は黙って口付けた。
140725
ヒロインはリヴァイ班という裏設定。