※いろいろごちゃごちゃしてる
「しろくまカフェ、ないんスか?」
黒髪(のちょっとイケメン)くんが、近くにいた私に聞いてきた。っていうか、よく見たらピアス空けすぎじゃない?その瞬間、ニックネームの神が降臨したみたいに、ビビッと来たので、彼のことをこれからは"ピアスくん"と呼ぶ事にした。顔に似合わずアニメ見るのか…と思ったけれど、残念ながら此処に"しろくまカフェ"はない。ピアスくんに無いことを告げれば、「ほな遊戯王見たいんスけど」と言われた。
「遊戯王も当店では扱ってないですね」
チッ、とピアスくんに舌打ちをされたが理不尽である、DVDがないのは私のせいじゃない。文句を言うなら、本部の奴らに言ってほしいくらいだ。本部も仕事しろよマジで。指示書出すことしか出来ない本部のせいで、バイトはどんだけ苦労していることか。はぁ、と溜め息を吐いてから「蔦屋さんの方がDVDは豊富ですよ。」と、本来してはいけないライバル店をお薦めしてあげようとしたら、私の言葉を遮って「学校の怪談はないんスか」と言ってきた。
「あ、それならあります」
アニメの端っこの、本当に目立たないところまで案内すれば、彼は嬉しそうにDVDを手に取った。
「まぁ、学校の怪談が見たかったんで。別に遊戯王とかいいっスわ」
じゃあ聞くなよ、とか思ったけれどこんなピアスくんでも一応お客様である。お客様は神様です、っていう接客の、何か…ポリシー?みたいなやつに従って黙っておいた。
「あんたも学校の怪談、好きなんスか」
急にピアスくんに話し掛けられて驚いた。「好き、ですけど」と、しどろもどろに返事をしたが、何故彼が知っているのだろうか。
「こんなマイナーな昔のアニメを検索せず案内出来る、ってことは、よっぽど記憶力いい天才か、好きな人しか有り得へんっスわ」
で、あんたが前者とかあり得へんし。と付け加えるピアスくんだが、つまりそれは、私が天才に見えないということを意味しているのだろうか?何て失礼な奴だ、と思う反面、ピアスくんの洞察力にびっくりした。意外と彼、鋭いな。もしかして彼、モノホンの天才だったりして。
「研修生さん、絶対最終回で天邪鬼の最後に号泣したんじゃないっスか」
「あれは泣かない方が可笑しいですよ。ピアスくんも絶対泣いたでしょ」
「は?泣いてないっスけど、つーかピアスくんって何なんすか」
君のニックネーム、と教えてあげればあからさまに不満そうだった。
「光でいいっスわ」
「?なにが、」
だから、俺の呼び方。と彼は言うが、年下であろうがお客様()を呼び捨てなど出来ない。百歩譲ってピカチュウと呼ぶなら呼び捨てでもいいが。
「……ほな、光くんで」
「え?ピカチュウでもいいんだよ?」
何でピカチュウやねん、と睨まれたが、私の防御率はそんなものじゃ下がらないのだよ。私には「てっぺき」という技があるのだよ…!眼鏡をクイッと上げるフリをしてドヤ顔で言えば、光くんはどん引きしていた。あれ、なんか私キャラ変わってない?
「一人で何言ってんスか」
「なんか今…緑に乗っ取られた」
はぁ?と疑いの眼差しで光くんに見られたけれど、本当にさっきの記憶があやふやである。ああ、疲れてるのか。そう言えば最近は変な客ばっかだったからな。うん、店長に頼んで休みを貰おう。
「というわけで失礼します」
ペコリ、と頭を下げてレジに戻ろうとすれば、光くんに腕を引っ張られた。「なぬっ!?」と、可愛くもない悲鳴を上げて振り返れば、彼は頬を染めながら私の手に何かを手渡した。
「これ、俺のアドレスなんで。研修生さんからのメール、俺待ってるんで」
無理矢理押し付け、そのまま走り去る彼にちょっとドキッとした。そうか、コレが噂のツンデレか。くしゃくしゃになった紙を開けば、ぶっきらぼうな字でアドレスが書かれていた。早速、バイトから上がったらメールを送ろうと思う。この世代ではマイナーなアニメ、学校の怪談について語りたいし。
ん、?でも何で光くんが私の名前を知ってたんだろう?初対面だよね?初めましてだよね?…まあいいか、どうせ減るもんじゃないんだし。「送信しました」という画面を数秒間見つめてから、パタンと携帯を閉じた。