「一体ここは何の店なんだ?」

入店早々、何の店だと彼は聞くが、むしろ彼は何の店だと思って来たのだろうか。レンタルDVD店です、と言えば彼はよく分かってないような表情をした。

「レンタル?」
「そうですレンタルです」

庶民はDVDを買うこともできねーのか、と呆れたように彼は言うが、それを言ってしまえばこの店でだけでなく、レンタル業界は終わりである。金持ちには分からないと思うが、今はネット上でスーツケースや靴、さらには一眼レフまで、何やかんや借りれる時代なのだ。世の中の進化は素晴らしい、文明開化万歳。

「バベッドの晩餐会はあるか」

目の前の彼は髪を掻き上げながら、突然私に聞いてきた。は、何ソレ?初耳なんですが?一応検索を掛けてみたが、生憎私の店では在庫が無かった。取り扱って無いですね、と告げた瞬間「あ?」と言われてしまった。

「本当に無いのかよ」
「無いですね」

チッ、と舌打ちされたけれど、無いものは無いのだから仕方ない。むしろ私は悪くない、検索して教えてあげたのだ、感謝されてもいいくらいだと思う。つーかバベッドの晩餐会って何処の国の映画なんですか、コノヤロー!

「お前はバベッドの晩餐会を知らねーのか」

うっかり態度(というか口)に出ていたみたいで、目の前の男にいかがわしい目で見られた。初耳です、と答えればハッと鼻で笑われた後「デンマークの映画だ、覚えておけ」と、物凄く上から目線で言われた。何だこいつ、一体何者なんだ。金持ちぶってるけどさ、どっかの国の王様(King)なの?よし、彼のことは王様(King)と呼ぼう。王様(King)は、ぐるりと店内を一周してから、再びレジまで戻って来て、「庶民がよく見る映画はどれだ?」と私に聞いてきた。

「はい?」
「あいつらはキャンディトークがオススメだと言ってたが…、俺様に庶民がよく見るDVDを教えろ」

キャンディトーク?何だそれ。もしかしてそれもヨーロッパの映画なのかな。っていうかこいつ、ものスゴく上から目線すぎないか?私の中でムカつく奴トップ10に入るかもしれない。が、一応は客である。「最近はクローズが人気ですね」と彼に言えばいくらだ、と聞いてきた。

「旧作なので百円ですね」
「………百円?」

百円で店が成り立つのか、とか、後ろにゼロを付け忘れているのじゃねーか、と彼は呟いていた。金持ちというか、王様(King)の考える事はよく分からん。彼はいくらでDVDを借りれると思っているのか、今度是非とも聞いてみたい。王様(King)は告白だけでは足りないのか、手当たり次第DVDを取っていた。

「他に庶民が見るDVDはどれだ」
「えっと、他だとワイルドセブンとか告白とか…」
「それも借りる、あとキャンディトークはどれだ」

またキャンディトーク?どんだけキャンディトークを見たいんだよ、こいつ。そんなに面白い映画なの?イースターラビットのキャンディ工場みたいな感じかな?うん、それなら少しだけ私も気になる。しかし全区分で検索した結果、そのタイトルでは在庫確認以前に、一つも該当しなかった。「タイトル合ってますか?」と王様(King)に聞いても「俺様が間違ってるわけねーだろ、あーん?」と言われてしまった。

「でも無いんですけど」
「その機械が壊れてんじゃねーのか」
「壊れてません。…やっぱりタイトル間違ってるんじゃないですか?どんな話なんですか?」

彼は一言、たっぷりと間を置いて「ヒザ神だ、」と言った。ヒザ神?え?あのフルポン村上の??運動神経悪い村上の?膝を曲げずに走っちゃう神的な村上の?もはや膝の神の?ヒザ神が見れる番組って…

「あの…、アメトークじゃないんですか」

優しく諭すように教えてあげれば、「一緒だろーが」と王様(King)は堂々と言い返した。いや、アメトークをキャンディトークって言われても分からないです。つーかなんでこいつはアメをキャンディ(飴)にしたの!雨上がり決死隊の雨なんだからどうせならレイントークって言えよ。レイントークなら伝わ…、らないか。ごめんやっぱり無理だわ。アメトークって言ってくれないと流石に店員でも分からないや。意気揚々とアメトークを手にした彼は、まるで絵心ない芸人が自信満々に絵を見せる、あの「どや顔」と同じだった。客だって分かってるけど…なんか、腹立つなあ。

「此処はカードが使えるのか?」
「そうですね、カードがないと借りれないですね」

何当たり前のこと聞いて来るんだよこいつ、とか思ったけれど口に出さなかった私偉い、ちょー偉い。メル友の光くんに後で褒めてもらおう。ほらよ、と彼が(どや顔で)差し出したのは、黒い見たこともないカードだった。…はい??

「えっと…」
「ブラックカードだろーが、あーん?」
「カードってそっちじゃなくて…。レンタルカードがないと借りれないですけど」

レンタルカード?と復唱する王様(King)に丁寧に説明してあげれば、身分証明書として氷帝の生徒手帳を見せてきた。うわぁ、忍足くん(眼鏡)とかキノコと一緒なんだ…。出来たてほやほやのレンタルカードで堂々とDVDを借りて帰った彼は「また来る」と言っていたが、DVDを返しに来てもらわなければいけないので、また此処に来るのは当たり前である。つーか結局王様(King)もレンタルしてるし。「庶民は買うことも出来ねーのか」的な発言してたの誰だよ。ってか私、あくまで店員であって突っ込み役じゃないんだけど!
ふと何気なく、レジのお金を置く受け皿を見れば、"跡部景吾"と書かれた名刺(キラキラしかも立体的なやつ)が置いてあった。……何コレ、全然いらないんですけど。え?最近の中学生は名刺まで持ってんの??無駄に洒落オツなんですが?それから、その名刺を迷うことなくシュレッダーに掛けた時、ようやく上がりの時間になった。あー、今日の客は今までで一番めんどくさかったな……。よし、帰りに入江っちに頼んで、ハーゲンダッツ奢ってもーらお。
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