「仁王、サマーウォーズ借りようぜい」

またあの紅白コンビが来た。あいつらが来た瞬間、少し騒がしかった店内は一瞬で静寂に包まれた。女性客だけでなく男性までもが、紅白コンビに釘付けになった。

「あの二人、相変わらずカッコいいよねー。まぁ私は仁王くん派なんだけど、」

イケメンに厳しい先輩ですら、うっとりとした眼差しで白髪頭を眺めていた。先輩が客の名前を覚えるなんて滅多にないのに、白髪は名前を覚えて貰ったことを光栄に思うべきだ。ちなみに私は仁王くんのことを、丸井くんと区別するため白髪と呼んでいる。ついでに言えば、仁王くんは苦手なタイプだ。

「でも、どちらかと言えば赤髪の方が良くないですか?」
「男はちょっとミステリアスな方がいいのよ」

確かに、彼の髪色はミステリアス過ぎる。でもあんな猫背の白髪が彼氏なら、…私は嫌だな。そんなことを考えながら、レジで作業をしていれば「サマーウォーズ、どこにあるん?」と白髪に話し掛けられた。まるで先輩がレジから離れた時を見計らったようだ、なんて口が避けても言えないんだけど。此方です、とその場所まで案内すれば「のぉ、」と呼び止められた。

「俺の髪色、どう思っちょる?」
「…えっと、白髪のことですか?」

白髪、そう言った瞬間、男は何とも言えない顔をした。白髪に見えるんか、と問い掛けられ「違うんですか?」と聞き返せば、これは銀髪じゃ、と言われてしまった。白も銀も同じじゃないか、むしろ彼の髪色は銀髪というより、私からしたら白髪に近いのだが。

「個性的な髪色ですよね。紅白コンビで、良いと思いますよ」

本当は「髪の毛痛んでそうだし、毛根死んでるんじゃないですか?将来ハゲますよ」と言いたかったが、流石にお客さん相手に言えないので、ありきたりな感想になってしまった。

「紅白って、…ブンちゃんと一緒にしとるじゃろ」
「まぁ、いつも二人で来てるので」

クラス一緒で仲良しなんよ、と白髪は笑って言った。はぁ、としか返さない私に「反応薄すぎぜよ」と不満そうだったが、そんな報告をされても困る。私はそこまで、彼らに興味もないのだから。

「あの、もう戻っても大丈夫ですか?」

仕事があるんで、と言おうとした時、運悪く赤髪もやって来てしまった。紅白サンドイッチ状態なう、まさに最悪だ。

「仁王ーって、ナンパかよい」
「違うナリ、案内してもらってただけぜよ」
「はぁ?お前…、俺と先週も探してたんだから、サマーウォーズの場所とか知ってるだろい」

呆れたように呟く赤髪に、ブンちゃんのアホ!と叫ぶ白髪だが、それよりも気になったことがある。場所を知ってた…?え?つまり、この白髪はわざと案内させた?それって、

「営業妨害じゃないですか」

私がそう言えば、赤髪は目を丸くして「なにお前、鈍感?」とあからさまに鼻で笑われた。「勘は鋭い方ですけど」と、負けじと睨み返したが、赤髪は気にしてない様子で、淡々と話しだした。

「つーか、わざわざ仁王がお前に話しかけたんだから、こいつ好意寄せてんじゃね?とか、思うだろい」
「私はそこまで自意識過剰じゃないですー。それに話し掛けられただけじゃ分かりませんー。ゆっきーくらい大胆なら、ちょっとはドキッとするけど、髪色について聞かれても何とも思いませんー。」

ヒートアップする言い合いに待ったをかけたのは、赤髪ではなく白髪だった。

「ゆっきー?何じゃお前さん、俺以外の奴にもナンパされとったんか」
「馬ッ鹿お前、自分でナンパって言ったら終わりだろい」
「どうせもうバレとるぜよ。それよりブンちゃん、ゆっきーに心辺りないんか?」

ゆっきーが誰か探そうとする二人を置いて、レジまで戻れば先輩が私を見てニヤニヤと笑っていた。

「研修生ちゃんもやるね!めちゃめちゃ口説かれてたじゃん!」
「…ただの営業妨害ですよ」
「そんなこと言って!赤髪狙いなんでしょ!」

さっきの会話を思い出した先輩は、まだ私が赤髪狙いだと思っているのだろうか。しかし先ほどの会話で、赤髪の異性としての好感度は遥か彼方、地面を突っ切る程まで落ちている。友達としてならまだいいが、あんな奴が彼氏なんてこっちから願い下げだ。

「いえ、私普通の人が好きなんで」

それだけ言えば、先輩は目を丸くして「そっか」とだけ言った。もし付き合うなら、もっと普通の人がいい。ここの客は、変な人が多すぎるのだ。
結局、紅白コンビはアリエッティとスマグラーを借りて帰って行った。…お前ら、サマーウォーズ借りないのかよ!!
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