▼似非うちなーぐち
今年も残すところあと少しとなってしまった。ハロウィンが終われば残るビッグイベントはクリスマスと年越しくらいだ。今頃リア充共はクリスマスに向けてケーキどうしようかな、デートはどこ行こうかな、やっぱりツリーは見たいよな。などと期待に胸を膨らませ準備しているのだろう。そう言えば、去年のクリスマスは光くんと(成り行きで)一緒にツリーを見たから結構充実してたなー、なんて考えてゲームセンターの前を歩いていたら、誰かとぶつかってしまった。
「あ、すみま」
「研修生やっしー!」
独特の方言で嫌な予感がしたので顔を上げずに通り過ぎようとすれば、グイッと腕を引かれ無理矢理足止めをくらった。条件反射で顔を上げれば予感的中、あの沖縄から来た茶髪ヤンキーである甲斐君が満面の笑みで私を見ていた。
「うんぐとぅとこで会うなんて運命やっさー!!なまからデートでもするばぁ?」
「し、ま、せ、ん!っていうか腕離してください!」
「てぃーを繋ぎたいぬやいびーんね!」
何を思ったのか彼はいわゆる恋人繋ぎでがっちりと私の手を握り締めてきた。違う違う、手を繋ぎたいから離してって言ったんじゃなくて此処から立ち去りたいから離してって意味だから!!
「ゆーじろー…ってあいひゃー?なんでやーがいるばぁ?」
角からひょっこり現れたのは、他人を助けないとわたしの中で定評がある凛くんだった。今度こそ助けて!ヘルプミー!という意志を込め甲斐君に拘束されている反対の手でおいでおいで、と手を振れば彼は分かってくれたのか私たちの近くまで来てくれた。
「あー…、えいしろーにはわんが言っておくやっしー。」
ゆーじろー貸しはちゃんと返せよ〜なんて呑気に来た道を戻っていく彼は、先程のヘルプミーをどう解釈したらそうなるのか是非とも走って追いかけて問い詰めたい。あいつに助けを求めたわたしが馬鹿だった。隣には、これで部活サボっても大丈夫さーと安心したように笑っているわたしよりも更に馬鹿がいた。最悪だ。
「あのぉ、わたし帰らないとダメなんですよぉ」
「やー、折角やっさープリクラ撮るばぁ!」
「いや、だから私は帰るんだって…」
「わんあの機種がいいさー!」
人の話聞いてます?聞こえてますか?あなたの両側についている耳はただの飾りなんですか?!話が噛みあってないのに気付いているのか気付いていないのか分らないが、彼はわたしを引きずりながら、女子高生ばかりいるプリクラコーナーに向かって行った。ああ、もう駄目だ。アーメン。わたしはこれからあの四角い箱に連れて行かれて…
「甲斐くん。サボりとはいい度胸ですね」
びっくりするような低い声に元気よくプリクラコーナーに向かおうとしていた彼は急に足を止めてその場で立ち止まった。ゆっくりと振り向けば見るからに怒っていますオーラを振りまくトルネと、俺は悪くないと言わんばかりに携帯をいじる凛君、あとは初めて見る脊の高いモヤシ男とぽっちゃり系男子がいた。あの二人を足してニで割ったら丁度よさそうなのに…。よく見ると凛君やトルネと同じジャージなので、彼らも部活仲間かもしれない。
「え、えーしろーこれはあらんばぁよ」
「ゆーじろー。言い訳は見苦しいさぁ」
先程まで貸しはちゃんと返せよ〜なんて言っていたやつが手のひらを返したようにトルネの味方をしていた。やはり彼は薄情だ。
「甲斐くん行きますよ」
「ヤダ!慧君もなんか言ってさー!!わんはデートしたいだけやっしー!!」
「ちょっと!デートしてもいいって私は言った覚えないからね!まず付き合った覚えもないからね!!」
「え!?」
「えっ?」
「やー、あの時のかなさんどーは嘘やったしー…??」
まるで子犬のような潤んだ瞳で近距離で見つめられるとイケメンに弱いわたしは言葉を詰まらせてしまった。騙されんなよーと凛君は冷静に言うが、イケメンに弱いのだから無碍にすることもできない。ど、どうしようなんて考えていた時、冷静にトルネが「研修生さんが練習を見に来たら解決するでしょう」と言いだした。…はい?
「その手があったばぁよ!じゃあ今から練習見に来てさー!」
結局彼らの練習に付き合わされ、最後まで見るはめになってしまった。今度はちゃんとデートするやっしー、と無理矢理赤外線でメアドを交換した後ようやく私は解放された。…絶対にトルネ許さん。