※似非うちなーぐち
「やー!なんで皆に隠すんさー!」
ずかずかと私に近付いて来た客は紛れもなくあの甲斐という茶髪少年だった。「隠す必要ないやっしー」と言ってるけど、ちょっと待とうか。
「そ、の、前、に!あなた勝手に言い触らしてますよね!?」
「わんの彼女ば?」
「そうそれです、それ!わたし付き合った覚え無いんですけど!!?」
「好き同士が付き合うのは普通やっしー」
いやいやいやいや、ちょい待ちちょい待ち。あの「かなさんどー」は言わされただけだからね?!自分の意志じゃないから!
「何で凛にも否定したんさー?」
「人の話聞いてます?言わされただけですよ、私は」
「ベストカップルやが?」
「違いますけど…っていうかあなた人の話聞いてないですよね?」
「照れる必要なーが!やーのことは分かってるさー!」
分かってるならちゃんと話聞いてください。頼むから聞いてください、三百円あげるから…!噛み合わない会話を繰り返すうちに、茶髪も矛盾に気付いたのか急に押し黙った。
「ちょっと待つさぁ。やー…」
「あ、誤解って分かってくれました?」
「何でわんのいない時に凛と会ったんさー?」
え、そっちですか!!?そこですか!?今マングース関係なくね!?むしろ原点から間違ってますよ、私たち付き合ってないからね?
「浮気されたやっしー…」と今にも泣きそうな茶髪を見れば、少しだけ気の毒に思ってしまった。いやいや、私は間違ってない。間違ってるのは確実にこいつの方だ。私は浮気以前に茶髪と付き合ってないもんね、うん。だから私は悪くない。
「わんとはデートしてくれないばあ?」
「……」
ぐすん、と涙ぐむ茶髪を見たら良心が痛んだ。ほらあれだよ、イケメンには弱いんだよ…涙は最大の武器って言うじゃん?あれ?女の涙だっけ?でもイケメンの泣き顔って罪じゃん、私悪くないのに悪いみたいじゃん…。
「凛とは会うのにわんとは会ってくれないばぁ?」
「マングースくんと会ったのは偶然と言うかたまたまと言うか」
「…マングースってぬぅよ?」
え、マングースと言えばあの金髪の得意業じゃ…。ほらあれだよ、あれ。軌道が曲がるとかいうマングースだよ、詳しくは知らないけど。だってトルネから聞いただけだし?
「あー、ハブのことばぁ?」
「えっ!?ハブなの!?」
「凛の得意業はハブやっしー。マングースは天敵さー!」
そっかハブか、ハブだったのか…。それならそうと、何であの時マング…じゃない、凛くんは間違ってることを指摘してくれなかったんだろうか。私ずっと間違ってたじゃん、めっちゃ恥ずかしいじゃん、赤っ恥じゃん…彼は本当に人の話聞いてないんですね。そこはさ、指摘してくれたって良いじゃん!はぁ…つまり彼の得意業はマングースじゃなくてハブね、オッケー。でももうめんどくさいから凛くんでいいや。
「じゃあわんも裕次郎でいいやっしー!」
「…ちょい待ち。その"じゃあ"は一体何処から来たんでしょうか」
「ンジチャービラ!また来週来るさー!」
かなさんどー!と言いながら問題児(茶髪)は帰って行った。…え?ちょっと、人の話聞いてた?凛くん以上に聞いてないよね?何一つ解決してないよね?むしろややこしくなったような…。あれ、さっき来週も来るって言ってなかった?…徳川くんとシフト変わってもらおう。