気紛れで映画を見に来た、本当に気紛れである。話題作の悪の教典を、光くんからめちゃめちゃ勧められた、っていうのもあるけど。一人で映画って、別に普通だよね?
「あ」
「あ」
「あ」
あ、の声が重なった。この状況は非常に説明しにくいけれど、挨拶するか迷う程微妙な顔見知りと遭遇してしまった、そんな感じだ。まぁ一言で言えば、常連とバイト先以外で会っちゃったーっていう。
「……どうも、」
「お前さんも悪の教典見に来たんか」
「だから此処にいるんですけど。っていうかこれR15…」
「俺ら高校生ナリ」
「え!!?」
「嘘に決まってんだろい。つうか…、一人で映画かよ」
赤髪の語尾に(笑)が付いている感じの口調だったので、ムカついたから「煩い黙れ赤髪」と言えば、赤髪は口を開けてポカーンとしていた。
「お前…案外性格悪いんだな」
「今のはブンちゃんが悪いぜよ」
「最悪。何で紅白がいるわけ」
「俺は嬉しいんじゃけど」
「仁王お前とりあえず黙れ」
座席に座れば"赤髪、白髪、茶髪"の順番になった。あ、茶髪って私ね。予告の時から熱い視線を感じて、隣を見れば何故か白髪が私をじっと見つめていた。
「……何ですか、スクリーン前なんですけど」
「運命じゃと思わんか?」
「あーそうですね、凄い偶然ですね」
「この後暇なら」
「仁王マジ黙れって、ワンピースの予告聞こえねーだろぃ」
赤髪に咎められ一時は静かになった白髪だが、熱視線は辞めてくれなかった。ちょ、ウザい。マジウザい。なんか見られたら集中出来ないじゃん。
「のぉ、この後暇じゃったら一緒に遊ばん?」
「………」
「俺が奢るけぇ」
「じゃあ…取り敢えず黙って前向いてくれませんか」
遊んでくれるんじゃな、と白髪は嬉しそうに目を輝かせて、直ぐに前を向いた。私、遊ぶとか一言も言ってないからね。あくまで「黙って前向いて」しか言ってないからね。よし、これで映画に集中できる。
ボリボリボリボリボリボリ
って思った矢先、白髪の隣…つまり赤髪からひっきりなしに何かを食べる音が聞こえてきた。おいふざけんなよお前。何食べたらボリボリ音がするんだよ。チラッと覗き込めばポップコーンと持参したお菓子を交互に食べていた。つか、白髪はこの音気にならないの?
ボリボリボリボリボリボリ
「すみませんそこの赤髪の人、ボリボリ煩いんですけど」
「いちゃもんかよ」
「…ちょっとお菓子自重してくれませんか」
「はぁ?お前何様だよぃ。あ、本編始まった」
赤髪の食べる音は気になるが、どうしようもないので本編に集中することにした。しかし気になる、マジでボリボリ煩い。開始五分で本編より赤髪のお菓子の食べる音が響いている。こいつKYか、KYなのか。
"はすみん!"
ボリボリボリボリボリボリ
"助けてはすみん!"
ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリ
"保健所に連れて行かれそうなの!"
ボリボリボリボリボリボリボリボリ
"よし、俺に任せておけ"
ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリ
シャラーップ!!!
思わず白髪の飲み終わったジュースの容器を潰してしまった。あ、ごめん。紅白は驚いた目で見ていたけど、ぶっちゃけこうなったのは、赤髪のせいだからな。白髪は悪くないけど、まぁ……白髪のジュースの容器が一番の被害者だ。煩い、と赤髪に口パクで伝えたら、ようやくお菓子を食べるのを辞めてくれた。これでやっと映画に集中出来る。
"はすみん…何で、?"
次々と血が飛び散るラストは、本当に圧巻だった。思わず顔をしかめたくなるシーンのはずなのに、白髪は笑いながら見ていた。…白髪怖い、なにこいつヤバイんだけど。え、何で満面の笑み??え?え???
「面白かったのぉ、特にラスト最高じゃ」
「俺お菓子吐くかと思ったっつーの…」
「流石R15ぜよ。結構リアルじゃったのぉ」
「って、キミたち中学生でしょーが」
いいだろぃ、別に。と悪怯れる様子もないこいつらは、きっと年齢詐称の常習犯に違いない。映画館を出れば白髪に(無理矢理)連れて行かれ、近くのゲーセンでプリを撮った。一体何故こうなった。
「やべぇ今日めっちゃ盛れる」
「このブンちゃん可愛いのぉ」
「仁王もやべぇって。この顔エロすぎんだろぃ」
「もうブンちゃん女装したらよか」
「それ仁王で良くね?あ、次は赤也誘おうぜぃ。」
「4人でダブルデートじゃのぉ」
……お前らはJKか!!なんか普通にこいつらの方がプリ写り良いんですけど、負けた感じなんですけど。白髪は早速撮ったプリクラを携帯に貼っていた。「柳生に自慢するぜよ」とか言ってたけど頼むから辞めてくれ。何が悲しくて中学生とプリクラ撮らなきゃいけないんだよ。年齢差考えてよね、私大学生なんだよ?三歳以上離れてますけど???あとさ、ちゃっかり次の遊びに私も入っているのは、気のせいだよね?