「あかん、出遅れてしもた!」

新作が並ぶ棚の前にうなだれる金髪の彼は、新作男(勿論命名は私)の忍足くんである。彼は新作が出る度ソッコーで借りる人だ。ちなみに彼が借り損ねることは、まずない。毎回新作を即日借りて帰る彼は、新作目当ての常連でも勝ち組に入る。そんな彼が初めて借り損ねたのは、洋画の話題作、ハリポタシリーズの最終話だ。が、しかし実はバックヤードに一つだけある。それは勿論、私が借りる用に予め取り置きしておいたものだ。

「すんません、ハリポタ帰ってないですか?」
「……無い、です」

せやんなあ、とあからさまに凹む彼を見れば少し気の毒に思えた。別に私はすぐに見たいわけじゃないし、まぁ出来ればすぐに見たいけど…。でも彼は新作に命をかけているようなものだから、その、つまり…今は瀕死みたいなものである。此処で復活の呪文を唱えてあげるのも、サービスかもしれない。

「あの、ありますよ。ハリポタ」
「なっ!ほんまか?!」

はい、とバックヤードからハリポタを差し出せば、彼は嬉しそうに「おおきに!」とぶんぶんと私の手を握ったまま、上下に振りかざした。

「いや、あの、大丈夫なんで、」
「あー良かった。無かったら蔦屋さん行くとこやったわ!」

嬉しそうに彼は言うが、蔦屋さんはライバル店である。敢えて名前を出すなんて、意外と性格が悪いか、天然のどちらかだ。おそらく彼は、後者だろうが。

「ほんならこれ、一泊で」

お釣りが出ないように支払うあたり無駄がない。白石くんも丁度払うタイプなんだけど。レシートをDVDの袋に入れて渡せば、「ほんま助かったわ、」と屈託のない笑顔で告げられた。ちょっと格好良いな、とか思ったのは内緒にしておこう。

翌日、彼がDVDを返しに来た時「あっ、あんな!ハリポタな、まさかのな!」とネタバラしをされた時は、本気で殺意が湧いた。前言撤回、奴はただのネタバラし新作男と改名することにした。
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