「とりっくあとりーと!」

片手を突き出し"とりっくあとりーと!"と叫ぶこの男の子は先日のワカメだった。ああ、今日ハロウィンか。"Trick or Treat"が正しいのだが、ワカメは必死に「とりっくあとりーと!」と言う。え、ちょっと発音悪過ぎない?お菓子をあげるべきか(早く帰って欲しいから)迷っていたら、ワカメの後ろから優雅に歩いてくるゆっきーが見えた。

「Trick or Treat」
「げっ!幸村ぶちょー!」

随分嫌そうだね、とゆっきーは微笑むが、ワカメの髪を撫でている手には力が入っていた。うわあ、ゆっきーってば見掛けによらずドS!

「そう言えば赤也、この前の英語の課題、真面目にやってないんだって?」
「何で幸村ぶちょーが知ってんスか!あっ、あんたチクったっしょ!」

私を指差しながらワカメは言うが、図星なので苦笑いすることしか出来なかった。まさかぱっつんやワカメ、ゆっきーが同じテニス部(で、しかも全員レギュラー)だなんて、奇跡に近いくらいスゴいことだと思う。最初ゆっきーから聞かされた時は、本当に驚いたものだ。あの紅白コンビも実はレギュラーらしい。これはスゴく嘘臭いけど。

「で、俺あんたからお菓子貰ってないんスけど!」

ビシッと指を突き立て私に言うワカメに「大体…」と言い掛ければ、誰かに遮られた。

「大体此処、お菓子屋さんじゃないんですけど。と、お前は言う」

見ればあのぱっつんだった、いつの間にワカメの隣にいたんだ、こいつ。しかし彼の目はいつも閉じている気がする。一体、いつになったら開眼するのだろうか。ぱっつんを見てゆっきーは「やあ蓮二、」と優雅に挨拶しているが、テニス部此処に集まりすぎだろ。え?ここで集会でもやるつもり?"ハロウィンだよ、全員集合〜!"みたいなノリなわけ?

「Trick or Treat」

ゆっきーくらい流暢な英語で言うぱっつんに、思わず「おお〜」と感嘆の声を上げ拍手をすれば、ワカメも負けずに「とりっくあとりーと!」と言ったが、お前は論外である。トリックオアトリート、と言うならまだしも、とりっくあとりーとでは通じないだろう。

「赤也は本当に発音が悪いな」
「せめてトリックオアトリートって言ってほしいよ」
「ちゃんと言ってますよ!」

だから言えてないぜよ、と急にぱっつんの口調が変わったかと思えば、目の前にいたのはカツラを取った白髪だった。……は?え、なに?仮装大会?え??ぱっつんは最初から白髪だったわけ??え??

「ははっ、間抜け面じゃのお」
「ってか何で幸村ぶちょーは驚いてないんスか!」
「え?だって知ってたもん」

もん、と男の子が言うのは如何なものかと思ったが、ゆっきーが言えば、何故かその辺の女の子が言うよりも可愛かった。これがゆっきーマジック??帰国子女ボーイ、恐るべし。

「おっ、いたいた」

ブンブンと手を振りながらこっちに近付く五人組の中に、あの憎き赤髪とぱっつん(モノホン)がいた。ん?他の三人誰だ?一人顧問の先生みたいな人と眼鏡とハゲは、初めて見た。おいおいマジでテニス部の集会此処で開く感じ?顧問の先生呼ぶとか本格的すぎない?

「すまない精市、遅れてしまった」
「ああ、俺らも今来たところだから」

顧問の先生みたいな人がゆっきーに敬語(しかも呼び捨て)で話し掛けていて驚いた。ゆっきー恐るべし、流石テニス部部長だ。顧問とも、まるで十年来の親友みたいな感じだった。そうか、あれが本場で身に付けたフレンドリーってやつなのかな。

「じゃあ研修生さん、またね」

ゆっきーが彼らを率いて店から出る姿は、なんかもう…とりあえず神々しかった。店を出る直前、白髪が「Happy Halloween」と此方に向かって言っていたが、何故白髪はあんなに英語の発音が良いのだろうか。普段は変な話し方のくせに。ふとレジの上を見れば、彼らが置いて行ったのであろう、大量のお菓子が積み上げられていた。嬉しいんだけどさ、いや嬉しいよ?お菓子に挟まっていた手紙には、汚ない字で「お果子あげるっス!」と書かれていたが、あのワカメは英語だけでなく漢字も弱いことが、よく分かった。

結局ゆっきー達にお菓子をあげれなかったけど(むしろ大量に貰った)彼らは一体、此処に何しに来たのだろうか。また一つ、謎が残ってしまった。
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