店長のご厚意で、ようやく三日間の休みを貰えた。…が、バイトを休んで二日目、あの問題児のせいでその休みも台無しになった。

「よっ。お前どうせ今日も明日も暇だろ?コーチから呼び出されてよぉ…俺とシフト変わってくんね?つーか変えといたから。んじゃ」

と、一方的な電話をされ、私が言い返す間もなく切られた。折角の休みを奪った問題児、越前リョーガを私は許さない。何だよあいつ、何様だよ!ちょっとかっこいいからって店長も甘いし、選抜に選ばれたらしいけど、入江っちだって確か…テニス?卓球?あれ、トロンボーンだっけ?うん、何かの選抜で選ばれてるんだぞ。お前だけじゃないんだからな、頭が高いぞ越前リョーガ!と文句を言いながらバイト先に来たけれど、今日も此処は騒がしかった。

「こしまえー!わいクレヨンしんちゃん借りたい!」
「だからさ、俺の名前こしまえじゃなくて越前なんだけど」

どっちでもええやーん!と叫ぶヒョウ柄タンクトップはまさに見た目がヤンキーである。ヒョウ柄タンクトップだよ??赤髪だよ???普通に怖くね?てか最近の中学生は髪色が豊富だよね、赤髪とか白髪…じゃなくて銀髪とか。いやあ、本当に怖い世の中だ。私が中学生の時は金髪でも「ウゲェ…」って思ったけれど、上には上がいるものだ。今度、どうやったらそんな奇抜な髪色になるのか誰かに聞いてみようかな。っていうか越前って今聞こえなかった?ん、越前?いやいや、気のせいだよ気のせい。うんうん、問題児のせいで疲れているだけだ。

「M:I借りるんじゃなかったの」
「わいクレヨンしんちゃんがええー!二本借りようやー!」

別に良いけど、と帽子の鍔を弄りながら彼はE.T.を手にしていた。いや、それM:Iじゃないんだけど。絶対三本借りる気だろこいつ。

「あー!こしまえズルいでー!ほんならわいもあと二本借りたるー!」

ヒョウ柄くんが更に二本DVDを手に取り、それに対抗するかのように帽子も更に三本手に取った。「こしまえー!負けへんでー!」と叫びながら六本増やすヒョウ柄くんを見て"こしまえくん"も七本手に取った。

では、皆さんに問題です。今彼らの手元には何本のDVDがあるでしょうか。

「ひぃふぅみぃ…、二十一本!」

はいヒョウ柄くん大正解。そう、彼らが持っているDVDの数は全部で二十一本。しかしここで大きな問題がある。そう、「レンタルは最大二十本まで」というあの決まりだ。

「で、どれ減らすわけ」
「こしまえが減らしぃさー!わいよりこしまえの方が多いやんかー!」

確かに、籠に入っている二十一本のうち、半数以上は"こしまえくん"の見たいDVDである。しかし"こしまえくん"も「お金払うの、俺なんだけど」と不満気だった。え、割り勘じゃないんだ。"こしまえくん"奢ってあげるとか金持ちだな…。

「クレヨンしんちゃんなんて、いつか再放送やるじゃん」
「こしまえは分かってないなー!このスパイは新しいんやでー?こしまえこそ、コナンとか再放送やるやろー!」

二人共よっぽど譲りたくないのか「それは再放送する」だの、「この前金曜ロードショーでやってた」だの、兎に角言い争いが凄かった。ヒョウ柄くんが関西弁なのもあってか、まるでドロップの喧嘩シーンを見ているようだ。そんな喧嘩も、ヒョウ柄くんの一言で決着が着いた。

「ほなM:I辞めようやー!なっ?それならええやろー?」

ヒョウ柄くんの提案に"こしまえくん"は「それならいいけど、」と了承しM:Iを元の場所に返していた。って、あんたらそれ借りに来たんじゃなかったの?うーん、中学生の考えることはよく分からん。
レジを終えて"こしまえくん"が帰ろうとした時、「あ、姉ちゃん白石の彼女やろー!」と叫びながらヒョウ柄くんが走って来た。は??白石の彼女?え、つまり白石って白石くん?はい??え?彼女?私が?白石くんの??

「ヒョウ柄くん、まさか白石くんって左手に包帯巻いてる…」
「わいなー毒手嫌いやねん!」
「毒手?じゃなくて、白石くんって左手に包帯…」
「毒手はあかん!」

ヒョウ柄くんは毒手が〜とか叫びながら店から出て行った。一体何なんだ。つーか毒手ってなに??余計謎が深まったんですけど…。でもヒョウ柄くんが言ってた白石って…、まさか白石くんな訳ないよ…ね?いやいやいや、ヒョウ柄くんが白石くんと もし 知り合いなら、一緒にいた"こしまえくん"が越前リョーガの知り合いっていう位、確率は低い訳で…。うん、無い。それは無いな。白石ってよくある名前じゃん、絶対忍足より多い名字じゃん。気のせいだよねー!ははは!

「帽子被ったちっちゃい"こしまえ"?あー、チビ助のことか?そいつがチビ助なら、俺の弟だけど。つーかお前、チビ」

ブチッ、と思わず電話を切った。問題児(越前リョーガ)の、…弟?嘘だろ…。ってことはつまり、ヒ ョ ウ 柄 く ん の 言 っ て る 白 石 く ん っ て … 。左手に包帯の白石くん?あの白石くん?次に白石くんが来た時に、事実確認という名の尋問を行うことを密かに誓った日であった。
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