「俺さぁ、今日誕生日なんだよね」

よく来る、独り言が多いので有名な伊武っちが今日は真っ先に私に話し掛けて来た。その場の雰囲気で「おめでとうございます」と言えば、「それだけとか有り得ないよね」と呟かれた。

「えっと、」
「だからさぁ、誕生日って言ったら、普通誕生日プレゼントを渡すだろ?」

確かに誕生日の子に誕生日プレゼントを渡すのは筋が通っている。だが伊武っちはあくまで常連さんであって、私の友人ではない。更に言えば、誕生日と知ったのもついさっきだ。前々から知っていたら、それはそれで怖くないか?まあ此処だけの話、会員情報見たら誕生日とか、全部分かるんだけどね。

「用意してないならしてない、って言えばいいのにさー。」

俺楽しみにしてたのに、とか独り言を言う(と見せ掛けて私に訴えている)辺り、伊武っちはズル賢い。アキラくんと一緒に来る時も、「札崩したくないんだよねー」と言い、結構アキラくんに奢らせている。伊武っちのズルさは、そういうズルさなのだ。

「じゃ、じゃあ来週までに伊武っちの誕生日プレゼント用意しときますね」
「今日誕生日なのに来週とか意味ないじゃん。来週は俺の誕生日終わってるから、今日欲しいんだよね。」

そして伊武っちはキノコ並みに我が儘である。伊武っちは常連だし仲良いし、全然キノコよりマシだけど。キノコは初対面でアレだから嫌になる、つーかあいつ私の敵だし。

「でも今、何も持ってないんですけど…」
「じゃあそれ、欲しいんだけど」

伊武っちが指差したのは、私の胸ポケットに刺さっているボールペンだった。しかも普通のボールペンではなく、他の人と区別しやすいよう自腹(強調)で購入した、キティちゃんの絵柄のボールペンだ。

「これ、ですか?」
「うん、それ」
「……伊武っち、私のお気に入りって知ってて言ってます?」

俺が根性悪みたいな言い方するよね、と彼は言うが、このボールペン結構高かったし、お気に入りだし、…絶対伊武っちは知ってて言い出す確信犯だ。本当はあげたくなかったけど、伊武っちの射るような視線に負けて「おめでとうございます」とぶっきらぼうに彼に差し出した。

「全然気持ち籠もってないけど、まあいいや。」

ぶつぶつと呟きながら、伊武っちは私からボールペンを受け取り、自分のズボンのポケットに突っ込んだ。

「じゃあこれ、俺からのプレゼントだから」

反対のポケットから何かを取り出して、私に半ば無理矢理押し付ければ、伊武っちは早々と店を後にした。彼から貰った、包装された小さな袋を開けば、綺麗な紺色のシュシュが入っていた。前に一度、髪の毛を括ろうか彼に相談したことがある。きっとその会話を、伊武っちは覚えていてくれたのだろう。伊武っちの好感度はかなり上がったが、一体彼は何がしたかったのだろうか。これじゃあ誕生日プレゼントと言うよりも、ただの物々交換じゃないか。
カウンターから鋏を取って、付いていたタグを切り落とし、早速シュシュを付けてみた。ちょっとだけ気に入ったのは、ここだけの話にしておこう。次に伊武っちが来た時に、このシュシュを付けていたら、一体彼は何と言うだろうか。
「ふーん、付けてくれてるんだ。なかなか似合ってるじゃん」と、伊武っちが嬉しそうに呟く姿を想像したら、微笑ましくなった。
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -