「此処はジブリが豊富ったい!」

店内に飛び込んで来た彼は、真っ先に子供向けに陳列されているDVDの棚に向かって行った。必死に屈んでDVDを探している大男を見て、隣にいる小さな女の子は硬直していた。ちなみに私も驚いて彼から目が離せずにいる。

「千歳ー…って、やっぱここや」

研修生ちゃんこんにちは、と挨拶する彼は、常連の白石くんだった。あのナンパ事件から仲良くなって、今は会えば挨拶する仲だ。

「白石!トトロ!トトロ借りるったい!」
「ええから落ち着け、な?」

大男を宥める白石くんは、普段より大人びて見えた。もしかしたら、大男が白石くんより年下かもしれない。

「あー、迷うばい。白石、二本じゃダメと?」
「あかん、一本にしぃ」

しかし大男が年下なら年上の白石くんにタメ口は如何なものか。いや、でも白石くんの心が広くて許しているだけかも。とか考えていれば大男がDVD(ちゃっかり二本)を持ってレジの前まで来ていた。

「いらっしゃいませ」
「カード無くしたったい、再発行出来んかね?」
「えっと、身分証明書をお持ちでしたら…」

ん、と差し出された生徒手帳を見て驚いた。白石くんと同い年ではないか。最近の男子はここまで成長するのか。カードを再発行したところ、住所が九州だった。だから話し方に訛りがあったのか。

「今は九州にお住まいですか?」
「引っ越したったい、住所変わってんね」

では、と変更届を出し大男に渡せば、すらすらと住所を書き始めた。どうやら大男は千歳千里くんと言うらしい。千(Thousand)ばっかだな、とか内心思ったが黙っておいた。

「ん、書けたばい」

ボールペンと変更届を受け取れば、千歳くんは満面の笑みで「これでトトロ借りれると?」と聞いてきた。この人、どんだけトトロが好きなんだ。

「あ、大丈夫です。では此方二点で二百円です。」
「安かねー。そぎゃん価格でよかと?トトロとナウシカたいよ?」

トトロとナウシカは格が違うのだろうか、「二百円で大丈夫です」と言えば「そぎゃんこつ言わずに」と二十円出された。

「……あの、あと百八十円足りないんですけど」
「気にしちゃいかんね」

満面の笑みで言う千歳くんは、天然なのだろうか。さっきの台詞と矛盾しているし、何よりお金が足りていないので貸せるわけがない。困っていれば白石くんがやって来た。

「千歳ーって、二本借りとるし…」
「白石、百八十円貸してほしか」
「はぁ?」
「足りんかったばい」

お前なぁ、とため息を吐きながらも白石くんは、千歳くんにお金を貸していた。

「……あと百円足りんばい」
「アホか、一本までや!」

白石はケチやねーとぶつぶつ言いながらも、結局千歳くんはナウシカを諦め、トトロだけを借りて行った。帰り際に千歳くんが、「研修生、むぞらしかー」と言っていたが、私は九州弁が分からないので適当に笑っておいた。とにかく彼、大男の千歳くんは、とても不思議な人だった。
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