お馴染みの常連、白石くんが今週もやって来た。無駄にイケメンオーラを振りまきながら、(よっぽど人と話したいのだろうか)入ってくるなりレジにいる私を見付けて早速話し掛けてきた。

「研修生ちゃん、最近困ったこととか無い?」
「困ったこと、ですか?」

急に言われても、と戸惑いながら答えれば「俺に言うたら解決するで」と彼は言った。一体何処からそんな自信が来るんだろうか。確かに白石くんなら、器用っぽいから色々と平凡な悩みなら解決出来ちゃうかもしれない。むしろ白石くん本人に悩みは無さそうだけれど。だってイケメンだし。

「ほら、えーっと、俺は研修生ちゃんの味方っちゅーか、あの……好きな子、やし…」

しどろもどろに白石くんは何か言っていたみたいだが、店内のBGMでほとんど聞こえなかった。(白石くんごめん)

「そうですね、困ったことは…変な常連が多いこと、ですね。」
「変な常連?」
「新作ネタバラし男とか、生意気な紅白コンビとか、自称金持ち王様(King)とか、わがままなキノコとか……他にもいるんですけど、言い出したらキリが無いのでやめておきます。」
「(めっちゃ思い当たる奴らおるんやけど、まさかあいつらとちゃう…よなぁ?)へ、へぇ。てか新作ネタバラし男って、何なん?」

彼、本当に最悪なんですよ!聞いてくださいよ!と新作ネタバラし男の愚痴を言えば、白石くんは何故か、段々と神妙な顔付きになっていった。

「もしかしてそいつ金髪で関西弁?」
「そう、ですけど…」

やっぱり、と実に残念そうな顔をする白石くんの後ろから「研修生ちゃんっ」と大声で叫ばれた。……来た、正に噂をすれば何とやら、だ。

「って、やっぱ謙也や」
「なっ何で白石がおんねん!」
「それはこっちの台詞やっちゅーねん」

はぁ?!と声を荒げながら新作ネタバラし男は昨日借りて行った宇宙人ポールのDVDを私に渡した。返却の方確認致しました、と彼に告げれば早速見たDVDの感想を、聞いていないのにも関わらず言ってきた。

「あんな、宇宙人がな!」
「はい謙也ストーップ」

な、何やねん!と止められたことを不満そうにする彼に、白石くんは「お前、ネタバラしはあかんで」と、私が今まで言いたくても言えなかったことを諭してくれた。白石くん優しい、神様かもしれない。私の中で優しい常連Top3に入るかも。

「研修生ちゃんはな、ハリポタを楽しみにしててん。ハリーの活躍をいち早く見たかってん、せやのにお前は…」

しかし白石くんが彼に説教を始めてから、既に三分は経過している。長い、非常に長い、これは流石に長すぎる。店内のBGMで流れているフライングゲットも、彼の気持ちを既にゲットしたのではないか、と思う程白石くんの説教はスゴく長かった。ここまで来たら、むしろありがた迷惑というやつだ。

「ネタバ、…彼も悪気があったわけじゃないと思うんで、もういいですよ」

俗に言う、営業スマイル付きで白石くんに言えば「、研修生ちゃんがそう言うなら…」と無駄に顔を赤らめて、チラッチラ私を見ながら新作ネタバラし男の説教をやめてくれた。新作ネタバラし男は、あからさまにシュンとしていたが、私からすれば、ハリポタの恨みはまだまだ晴らせていない。忍足くん(眼鏡)から聞いた呪文を使うタイミングも、白石くんのせいで逃してしまった。ってか新作ネタバラし男って名前、長いな。

「ほんま堪忍。って、てかな!ネタバ…って何なん?」
「やだなあ、そんなこと言ってませんよ。」
「せやで謙也、研修生ちゃんに変な言いがかりはあかんで」
「え、言うてなかった?」

気のせいですよ、と無理矢理無かったことにすれば、何を思ったのか彼は「俺のことは謙也って呼んでな!」と言い出した。

「謙也、抜け駆けする気か?」
「あっ、呼び捨てでええで!」
「お前…!」

何故か白石くんは悔しそうな顔をしていたが、とりあえず「じゃあ謙也くんで」と言っておいた。しかし密かに彼の新しいニックネームはもう決めてある。新しいニックネームは見た目からのチョイスでヒヨコだ。更に言えば、「謙也くん」は五文字だけど「ヒヨコ」は三文字なので、立派な節約になる。私って案外天才かもしれない、これからはニックネームの神とでも名乗ろうかな。

数分後、ヒヨコは白石くんと仲良さげにサマーウォーズを借りて帰って行った。え?なに、今中学生たちの間でサマーウォーズ流行ってんの?この前もワカメとぱっつんが借りて行ったし。紅白コンビもサマーウォーズ推してたし。
まあいいや、と仕事を再開した時にふと思ったのだが、白石くんとヒヨコはお互い顔見知りっぽかった。一体、どういう関係なのだろうか。あっ、ヒヨコも千歳くんと知り合いだったりして。実はみんなテニス部とか…まさか、ねぇ?
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -